15人のフリーランスのIT技術者が、1989年に立ち上げた旧首都圏コンピュータ技術者。個人事業主の互助会的な位置づけでスタートした同社グループは、今年9月、持ち株会社MCEAホールディングス(MCEA-HD)へと移行した。MCEAは旧首都圏コンピュータ技術者の英名「Metropolitan Computer Engineer Association」からとったもので、傘下に協同組合時代からの伝統を継承するフリーランス集団やSIer、コンサルティング会社をもつ総合システムベンダーとしての成長を目指している。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 MCEAホールディングス
所在地 東京都港区
資本金 1億円
設立 1989年5月
社員数 グループ従業員数300人余り+個人事業主約2600人
事業概要 MCEAホールディングスは、フリーランスのIT技術者約2600人で構成するPE-BANK(旧首都圏コンピュータ技術者)や、SIerのアスノシステム、コンサルティングの流通戦略総合研究所を傘下にもつ持ち株会社
URL:https://mcea-hld.jp/ 国内最大のフリーランス集団

齋藤光仁
代表取締役 フリーランスのIT技術者の協同組合からスタートした旧首都圏コンピュータ技術者が、今年9月に持ち株体制へと移行した背景には、同社グループのSIerであるアスノシステムの存在が大きい。従業員数は160人余りと決して大きいSIerではないが、流通・サービス業向けのシステム開発実績が豊富で、ネット通販やオムニチャネル領域での受注も増やしている。
一方で、旧首都圏コンピュータ技術者は、2007年に株式会社へと改組したのちも個人事業主の互助会的な性格を色濃く残しており、「変にお互い意識するのではなく、それぞれ個別の事業体としてビジネスに取り組んだ方が実力を発揮しやすい」(MCEAホールディングスの齋藤光仁代表取締役)と判断。今年9月1日付けで持ち株会社のMCEA-HDを設立し、その傘下に旧首都圏コンピュータ技術者を社名変更するかたちで「PE-BANK」、SIerのアスノシステム、コンサルティング会社の流通戦略総合研究所を横並びで配置する体制へと移行させた。
PE-BANKの「PE」は「プロエンジニア」の頭文字で、多くのフリーランスのIT技術者が参加している。最大の特徴は技術者がみなフリーランスという名の個人事業主である点だ。直近では約2600人が参加し、内およそ800人が同社の株主でもある。これだけの規模のフリーランスが集まる団体は、国内で他になく、これがプロエンジニアの人材バンク「PE-BANK」の社名につながっている。
働き方をもっと自由なものに
新体制となったPE-BANKは、新社長の櫻井多佳子氏のリーダーシップのもと、「フリーエンジニアの働き方をもっと自由で豊かなものにしていく」(齋藤代表取締役)を主眼として、営業や事務手続きの代行、確定申告をはじめとする税務処理の支援、共済制度などの福利厚生を手がけることで、フリーランスのIT技術者が安心して仕事に集中できる環境づくりに力を注いでいる。
直近のビジネスも堅調に推移しており約2600人のPE-BANK参加者の内、稼働中の人数は約2000人で、顧客との契約が終了しても「またすぐ別のクライアントから注文を受けるエンジニアも多い」(同)と、途切れなく仕事が回ってくる状況だ。エンジニアのなかでも腕に覚えがあり、激しい競争のなかでも“一匹狼”で勝ち上がってきた猛者ばかり。ある期間集中して稼いで、まとまった休みを取る人や、子育てに没頭する人など、サラリーマンでは難しいユニークなライフスタイルをもつ人も多い。まさに個人事業主ならではの自由奔放さともいえる。
組織力を生かした先行投資も
これに対してグループ会社のアスノシステムは、普通のSIerであるため、PE-BANKの面々とは働き方が大きく異なる。さらに、SIerが勝ち残るには従来の受託ソフトの開発だけでなく、企業としての組織力や資金力を生かして、クラウド/SaaSといった先行投資を伴うサービス型のビジネスを増やしていく必要がある。実際、アスノシステムは流通・サービス業をターゲットとした業種ノウハウの深掘りを進めるとともに、自社独自のサービスとして、貸し会議室検索サービス「会議室ドットコム」を展開。サービス開始から10年で国内最大級の貸し会議室を検索サービスに育てている。
PE-BANKも駆け出しのフリーランス技術者が早く独り立ちできるよう、先輩技術者との勉強会や交流会を積極的に開催するなど、技術者のスキルを伸ばしやすいような支援体制を一段と強化していく。また、これまでは得意業種(金融やサービス業など)と習得言語(C++やJavaなど)を掛け合わせたスキル表はつくっていたが、今後は例えばウェブ系やITコンサル系、業務アプリケーション系といったカテゴライズを行い、技術者のキャリアパスや強みをより明確に打ち出したり、個人情報管理士の取得支援といった情報セキュリティ関連のビジネスも拡大させる。
持ち株会社体制に移行したことで、PE-BANKとアスノシステムは、それぞれの事業特性に合わせて、「独自の道を歩みやすくなった」と、MCEA-HDの齋藤代表取締役は話す。こうした取り組みによってユーザー企業の期待に応え、ビジネスを伸ばしていく方針だ。