ガリガリガリ……。右側から自動車が突然現れて、そのまま止まることなく突っ込んできた。長年愛用してきたマイカーが、想定外の接触事故で悲運の最後を迎えることとなる。接触相手の運転手は高齢者だった。幸い、家族にケガはなく、先方も無事だった。2年ほど前の事故である。その日から、自動運転車の普及を心から願うようになった。
高齢者の運転による自動車事故が、何かと話題となっている。自動車事故は若者でも引き起こすが、高齢者がらみの事故は自動車社会のあり方を見直す機会にもなるため、話題性が高い。自動車社会に侵食していく超高齢化社会。自動車社会は、いずれ自動運転車社会に変わると期待したい。
先の接触事故は、次のような感じだった。細い農道を走っていたときに、農協の敷地からノーブレーキの自動車が突如として姿を現す。休日で農協は休み。相手の運転手は、道路をショートカットするために敷地内を走っていた。まったく想定できない状況で、回避の術はなかったと今でも思っている。自動車を降りた高齢者は「サンダルが引っ掛かってブレーキを踏めなかった」と釈明していた。
農協の敷地への不法侵入とサンダル履き。相手が100%悪いと思うが、こちらも走行中のため、1割の責任を負わされた。車載カメラを搭載していたら、結果は変わったのだろうか。
すべてが自動運転車に切り替わるまでには多くの年月を費やさなければならない。それまでは、手動運転車の予測不能な動きに対応できる自動運転車が求められる。
必要なのは、データの蓄積だ。いくら高性能なAI(人工知能)を搭載したとしても、「農協の敷地からノーブレーキの自動車が突進してくるかも」というデータがなければ、きっと接触を回避できない。自動運転車を実現するには、こうしたデータの収集が必要となる。
言うは簡単だが、全国の想定外データを集めるとなると、簡単ではない。ただ、それができなければ、自動運転車に安心して乗ることができない。現在、多くの企業が自動運転車に取り組んでいる。自動運転車ではハードウェアやソフトウェアが注目されがちだが、最後にはデータがカギを握ると考えると、あらたなビジネスチャンスがみえてくる。
『週刊BCN』編集長 畔上文昭
略歴
畔上 文昭(あぜがみ ふみあき)

1967年9月生まれ。金融系システムエンジニアを約7年務めて、出版業界に。月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。著書に「電子自治体の○と×」(技報堂出版)。趣味はマラソン。自己ベストは、3時間12分31秒(2014年12月)。