SIerにとっての競争力の源泉は「人材」によるところが大きい。どれだけ優秀な人材を採用し、育成するかは、SIerの業績や顧客の満足度を左右する。全国的に知名度の高い大手SIerですら人材確保や育成に悩みを抱えるケースが多く、ましてや中小のSIerでは大手に比べて深刻度はより大きくなりがちだ。プレスクは、こうした課題の解決にいち早く取り組むことで人材をつなぎとめ、経営幹部の育成や業種・業務ノウハウを蓄えた専門的な人材育成に努めることで業績を伸ばしている。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 プレスク
所在地 東京都千代田区
資本金 3000万円
創業 1989年
社員数 約30人
事業概要 プレスクは、2014年12月にSIerのウエルストーンから独立。医療や企業年金、コンテンツ配信などの分野で強みをもつ。働きやすい職場づくりに力を入れており、東京都から「東京ワークライフバランス認定企業」に選定されている
URL:http://www.presq.co.jp/ 人材確保で「悔しい思い」

湯浅 信
代表取締役 プレスクの、つい1年前までの従業員数は約20人で、お世辞にも大所帯のSIerとはいえない規模だった。人材を増やそうにも、大手SIerや他業種との人材の奪い合いのなかで、中小SIerが優位に立てることはほとんどなく、「悔しい思い」(湯浅信代表取締役)の連続だった。そこで湯浅社長が打ち出した大方針が、「顧客、従業員、収益」の3大重視項目である。
「あたりまえじゃないか」と指摘されそうだが、プレスクの場合、「顧客と従業員の満足度を同レベルで重視する」(湯浅社長)と、より一歩踏み込んでいる点が他のSIerと大きく異なる。顧客と従業員の満足度を天秤にかけた場合、顧客の満足度を優先するのが一般的な「顧客主義」の考え方だが、プレスクは敢えて同レベルまでもっていくことで、人材のつなぎとめと育成に舵を切った。
具体的には、仕事と生活のバランスを健全に保つ「ワークライフバランス」に取り組み、2013年には東京都から「育児・介護休業制度充実部門」で“ワークライフバランス認定企業”に選ばれたのに続き、15年11月には「休暇取得促進部門」で、2度目のワークライフバランス認定企業に選定されている。
人的リソースの余裕に乏しい中小SIerが、実際に育児・介護休業や休暇の取得促進を実践しようとすれば、人のやりくりを含めてさまざまなハードルにぶつかる。だが、粘り強く働きやすい職場づくりや従業員満足度の向上に努めたところ、結果的に「顧客満足度が高まり、それに引っ張られるかのように業績も伸びた」と話す。
職場環境の改善と人材育成で独立
プレスクは、もともと同じSIerのウエルストーングループに属していたが、経営陣による企業買収「マネジメント・バイアウト(MBO)」方式で、14年12月に独立した。MBOに踏み切れたのは、職場環境の改善と人材育成への取り組みによって顧客満足度が高まり、ビジネスを伸ばすことができた要因が大きい。
独立すればグループ間の庇護は受けられなくなるデメリットはあるが、それでも「顧客満足度と従業員満足度を両立させる当社のスタイルをより徹底して追求できる」(同)メリットもある。プレスクは後者のメリットをとるかたちで独立し、従業員数も30人程度まで増やした。同社は医療分野や企業年金、コンテンツ配信などのシステム開発を強みとしてシステム開発を請け負ってきたが、人員増強によって新たに公共・自治体領域にもビジネスを広げつつある。
自治体領域では、古いクライアント/サーバー時代の業務アプリケーションが少なからず残っており、これをクラウド環境に対応可能なウェブベースの業務アプリへとマイグレーション(移行)する案件などが好調に推移している。
若手の育成が顧客からの信頼に
仕事の幅が広がるに従い、これまで実質、社長一人で営業すべてをみることがだんだん難しくなってきた。また、企業経営の継続性を考慮すれば「まだ自分が若いうちに経営幹部を多く育てなければならない」(湯浅社長)との危機感もある。最初は幹部候補を自分の営業に同行させるところから始め、次の段階は売り上げ目標はもたせず、候補者自らユーザーへの提案活動を行う。独り立ちしてからは部門ごとの予算を、それぞれの部門長にできる限り任せて、自主的な営業・提案活動ができる体制までもってきた。
最初はおっかなびっくりだった若手社員らも、顧客への営業や提案に必要な業務や技術を以前にも増して学ぶようになり、多少のぎこちなさを残しながらも、誠心誠意、積極的に顧客にぶつかっていくことで、「顧客の部長さんたちから好意的に捉えられることも増えた」と手応えを感じている。顧客企業も、コンプライアンス(法令遵守)の観点から、人の出入りが激しく、意欲に欠ける従業員がいるSIerに業務システムを任せて、万が一、情報漏えいなどの不祥事に巻き込まれるリスクを嫌う傾向が強まっているという。
プレスクの取り組みは一見すると遠回りのように見えるが、顧客と従業員の満足度を両立させることで業績向上につなげている。同社では向こう3年で従業員数をさらに倍増させ、事業拡大に結びつけていく方針である。