前号までは主にAUTOSAR開発ベンダーの動きを追ってきたが、今号では組み込みソフトを強みとするSIerの見方をレポートする。自動車産業が盛んな名古屋に本社を置く東海ソフトは、組み込みソフト開発に強いSIerとして有名だ。同社がAUTOSARを意識し始めたのは2010年前後だが、足下の自動車関連メーカーからの受注内容をみても「差し迫ってAUTOSARのスキルを身につけなければならないとは感じなかった」(東海ソフトの伊藤久司・営業本部技術営業部次長)と、当時を振り返る。

伊藤久司
次長 転機になったのは、自動車関連メーカーが彼らの社内・グループ内でAUTOSARを徐々に採り入れ始めたのと、名古屋大学教授で自動車産業に詳しい高田広章・TOPPERSプロジェクト会長の助言だった。TOPPERSプロジェクトは、車載システムなどに使うリアルタイムOSの研究会で、東海ソフトはこのプロジェクトのメンバーでもあり、日本でも徐々に現実味を帯びるAUTOSARビジネスの立ち上がりを肌で感じるようになってきた。
これまで、ECU(電子制御ユニット)のマイコンごとにつくり込んできた組み込みソフトが、AUTOSARという共通プラットフォーム(OS)上へ移行するとなると、当然ながら基盤となる部分の開発は大幅に減る。自動車関連メーカーにとってみれば、これがコスト削減や開発効率、品質の向上につながるわけだが、開発を請け負う側からみれば仕事が減りかねない。東海ソフトの社内でも「議論が続いたところ」(同)だという。
足下の車載ECU向け組み込みソフト開発ビジネスをみると、年を追うごとに開発ボリュームが増えており、「人手が足りず、請け負いきれずに受注をお断りするケースもある」ほどの盛況ぶりだ。売り上げも右肩上がりではあるものの、一方で、「このまま際限なく開発ボリュームが増え続けるわけはない」との冷静な見方も頭をもたげる。
さらにAUTOSAR採用の動きが本格化することを見据え、名大の高田教授が中心となって国産AUTOSARの開発や人材育成を目的にAPTJ(名古屋市)を立ち上げた。現に欧州輸出向けのECUでは標準OSになることが確実視されるなか、「AUTOSARビジネス参入はもはや不可避」との判断を下し、富士ソフトやサニー技研などとともに東海ソフトもAPTJに資本参加。出資するだけでなく、若手から中堅、ベテランに至るまで東海ソフトの虎の子の技術者を送り込みAUTOSARの研究と開発に従事させている。
車載ECU向け組み込みソフト開発の受注好調で、ただでさえ人手不足が続くなか、AUTOSAR開発ならびに技術取得、人材育成に経営リソースを割くのは、短期的にみれば業績のマイナス要因になる。しかし、今後、AUTOSARを中核としたさまざまな関連する組み込みソフト、車内ネットワーク、ADAS(先進運転支援システム)の開発が拡大することで、「中長期的にみれば、むしろこちらの方が伸びしろが期待できる」(伊藤次長)とみている。