日立システムズは、AI(人工知能)に対応した“デバイス”に着目し、AI関連ビジネスの基礎をつくりあげようとしている。同社金融事業グループ金融営業統括本部の曽谷英司本部主管は、顧客である銀行を営業で訪れたとき、受付に接客・受付用の小さな人型コミュニケーション・ロボットをみかけた。一目見て「ロボットの中身はパソコンやスマートフォンと大差ない」ことを直感したという曽谷本部主管は、「これを当社の保守サービス事業の新しいターゲットにできないか」と考え、金融事業グループに属しながらも、ロボット事業の立ち上げに邁進することになる。(取材・文/安藤章司)
主要SIerがこぞってAIビジネスに乗り出すなか、総合SIerとして、例えばビッグデータ解析の切り口からAIビジネスに迫ったり、産学連携や国内外のスタートアップ企業に出資するなどして、AIエンジンそのものの開発を優先する選択肢もあった。しかし、日立システムズのAI事業は“デバイス”を足がかりに立ち上げることを選んだ。なぜか──。この背景には、同社が全国約300か所の保守サポート拠点を展開し、大規模なコンタクトセンターやデータセンターを運営していることが挙げられる。
保守サービスはハードウェアの単価下落で、各社ともビジネス的に厳しい状況にあり、日立システムズも例外ではない。これから普及が見込まれるロボットをはじめとするAI関連デバイスを新たな保守サービス事業のターゲットに加えることで、自社の強みや経営リソースを生かし、他社との差異化にもつながると考えたわけだ。

曽谷英司
本部主管兼
ロボット事業推進部長 曽谷本部主管は、ロボット事業を“全社事業”に格上げするため、サービス対象を介護や力仕事で使うパワーアシスト機器(パワードスーツ、強化服)、ドローンなどに広げるとともに、これらロボットの導入支援、アプリケーション開発、保守サービスをワンストップで行うサービス体系を構築。曽谷本部主管はロボット事業推進部部長を兼務するかたちで、この春から本格的に「ロボティクスサポートサービス」をスタートさせ、向こう3年で同サービス事業で累計50億円の売り上げを目標に据えている。
コミュニケーション・ロボットでは、ちょっとした不具合や光の当たり具合一つで顔認識の精度が大きく左右されたりするため、ITに詳しくないユーザーでは対応できないときに、同社のコンタクトセンターによるヘルプデスクや出張サポートが重宝されている。
また、今年4月に発生した一連の熊本地震では、被害状況を確認するのにドローンが大活躍したのは記憶に新しい。しかし、大量に蓄積していく画像の保管や分析が後手に回っていることも少なくないという。ドローンユーザーは官公庁や設備管理会社、保険会社など多岐にわたる。こうした顧客をターゲットに、ドローンのハードウェア保守はもちろん、「当社のデータセンターを活用した画像処理系のサービスラインアップも充実させていく」(曽谷本部主管)と意気込む。