地方のSIerの代替わりが進むなか、長野県塩尻市のユリーカも、二代目社長の青山雅司代表取締役へとバトンタッチした1社だ。父親が起こした会社を引き継ぐにあたり、東京のSIerで10年ほど修行した。大学を卒業してから富士通系の大手SIerに勤めるも、「規模が大きすぎる」との理由で中小SIerへ転職。下請けの客先常駐から出直して、最終的には80人規模の部下を率いる部門長まで上り詰めた。SIerの多重下請け構造に疑問を感じつつも、一方で「どうしたら儲かるかを学ぶことができた」と話す。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 ユリーカ
所在地 長野県塩尻市
設立 1981年5月
資本金 2400万円
従業員数 38人
事業概要 ユリーカは、信州精器(現:セイコーエプソン)の生産管理システムを手がけて成長してきた地場SIer。二代目社長となり、「地場の力」や「プライム(元請け)力」を高めることで再び成長路線へと舵を切る
URL:http://viva-eureka.com/ 大手ベンダーから中小SIerに転職

青山雅司
代表取締役 父親の会社のことを漠然とイメージしつつ、青山雅司氏のキャリアのスタートはプログラマだった。富士通系の大手SIerでPOSシステムの構築などの仕事に従事していたが、「あまりに規模が大きすぎる」との理由で、従業員数約200人(当時)の中小SIerへの転職を決める。元請けの仕事があたりまえだった富士通系SIerに比べて、中小SIerの立ち位置は過酷だった。基本、仕事があればなんでもこなす。青山氏自身も、ソフト開発だけでなくサーバーやネットワークといったITインフラ系の経験を積みつつ、気がつけば客先常駐先の責任者もこなすようになっていた。
「エンジニアの経験だけで会社経営はまず難しい。最低でも部門経営くらいのノウハウがないとダメだ」と考え、自ら積極的にプロジェクトに参画していった。仕事を選んでいる余裕がない中小SIerは、案件ごとに仕事の内容が大きく変わる傾向が強く、青山氏も技術や営業、プロジェクト管理といったさまざまな仕事を経験しつつ、最終的には部門経営を任され、そこで「商売の基礎の基礎」を学ぶ。在籍中の約7年間の最後には部門を任されるようになり、「どうしたら儲かるのか」をただひたすら学び、経験した。
地元に戻った途端に危機に直面
青山氏が修行した会社は、ベイカレント・コンサルティングで、入社当時は約200人しかいなかったが、あれよあれよという間に1000人を超える規模に成長。客先常駐のSIerからスタートし、その後、すぐに元請けのITコンサルティングへと業容を拡大。今ではシステム構築から経営戦略コンサルティングまで幅広くこなす中堅・準大手のSIerへと急成長している。
「父親の会社も、自分の手で、再度、成長させたい」と、ベイカレント・コンサルティングでの経験を生かすべく、青山氏は2010年にユリーカに転職。13年に代表取締役に就任した。トップ就任までのあいだ、青山氏は「地方のSIerのビジネスは想像以上に厳しい」ことを率直に感じた。このままでは将来的にキャッシュフローそのものも危なくなりかねないため、自らを含む役員報酬をカット。管理職手当の一部も一時的に削減し、青山代表取締役は新規受注に向けた営業に奔走するも、なかなかうまくいかない。
ユリーカは、1980年代に地元信州精器(現:セイコーエプソン)向けの生産管理システムを手がけたことがきっかけで成長してきたSIerだ。その後、地場の企業向けにソフトウェア開発を手がけてきたが、冷静に「自社の強み」を改めて洗い出してみると「規模が大きいわけでもなく、競争力のある突出した技術や製品、サービスがあるわけでもない」ことを改めて痛感する。
協同組合で「プライム力」を高める
しかし、強みはある。それは地場のSIerであり、地元の企業のITを活用した経営革新、競争力の向上にとことん協力し、寄り添える“地場力”だ。青山代表取締役は、地元企業を中心に、再度、提案活動に取り組んだところ、この“地場力”を評価し、仕事を出してくれた1社が、あの創業時からの顧客であるセイコーエプソンだった。さらに、他の地場企業も仕事を出してくれたことで、キャッシュフローの危機を回避し、凍結していた役員報酬と、管理職手当も全額、元に戻すことができた。
青山代表取締役は、修行させてもらったベイカレント・コンサルティングのように、「ユリーカも、再び成長させて、しっかり稼いで、技術をピカピカに磨き上げた会社になりたい」と考えている。ただ、地方のSIer1社ではやれることに限界があることから、今年4月に地元長野県のSIerを中心に「グローバルICTソリューションズ協同組合」を発足。青山代表取締役自身が初代の代表理事となって地場力の結集を呼びかけることにした。
まずは「地場SIerのプライム(元請け)力を高める」ことから着手。元請けはリスクが大きい分、粗利も期待できるハイリスク・ハイリターン。1社では難しくても協同組合方式で元請けとなることでリスクを分散できるし、規模のメリットも出てくる。協同組合に賛同して参加してくれた会社は直近で33社。この取り組みは、まだ始まったばかりではあるが、青山代表取締役は長野の情報サービス産業の一員として、「地場SIerがしっかり稼げる仕組みをつくりあげたい」と話している。