「開発環境が充実することで、SIの余地は狭まっていく。とはいえ、なくなりはしない」と、ソウルウェアの吉田超夫代表取締役はSIの今後を展望している。ウェブ系の開発からスタートした同社は、PaaSを活用して短期間でシステム開発を行う“ファストSI”を取り込むことでビジネス領域を拡大してきた。ファストSIは、短期開発というユーザーニーズに応える一方で、SIerの出番を減らしてしまう。吉田代表取締役は、その流れは不可避とするも「スキマは必ずある」と確信している。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 ソウルウェア
所在地 東京都新宿区
資本金 300万円
設立 2012年12月
社員数 8人
事業概要 サイボウズの「kintone」を活用した開発、関連システムの開発・販売。基幹システム、ウェブサービスなどの企画・開発・コンサルティング
URL:https://soulware.jp kintoneでファストSI

吉田超夫
代表取締役 ソウルウェアの売り上げの約8割は、PaaSを活用したファストSIの事業が占める。同社が使用するPaaSは、サイボウズのビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone」だ。
「kintoneがリリースされたばかりの時期に、サイボウズに転職した会社員時代の同僚から紹介してもらった。当時はkintoneの知名度がまだ低かったこともあって、とにかく使ってほしいという要請だった」とのこと。もともとエンジニアだった吉田代表取締役は、ウェブ系のシステムであればすばやく構築できる自信があったため、kintoneの説明を聞いたときは必要性をあまり感じなかったという。
ところが、「実際に開発案件で使ってみたところ、想定以上に簡単にシステムが構築できた。しかも、特別なスキルがなくても手軽に手直しができてしまう。そこで、システム構築後のメンテナンスはユーザーに任せるようにした」というように、吉田代表取締役はファストSIの有効性を表現する。
ソウルウェアのSIerとしてのビジネスモデルも大きく変わった。「それまでは要件定義をして、完成形を決める。構築後に現場の意見を聞いて、再度要件定義をして、手直しする。こうした作業の繰り返しだったが、ファストSIでは最初に完成形を決める必要がなく、まず構築して、意見を聞いて修正しながら進めていくことができる」(吉田代表取締役)。
運用保守費用には頼らない
ファストSIには、「利益が少ない。案件規模も小さくなりがち」(吉田代表取締役)という手軽さゆえの課題もある。ファストSIを事業の柱とするには、数多くの案件をこなしていかなければならない。また、手離れがいいため、SIでは一般的な本番稼働後の運用保守費用が期待できない。「メンテナンスは人月単価での売り上げとなる。それでは伸びしろがない。そこに頼っているようでは、会社の行く先は明るくない」と、吉田代表取締役はファストSIに対して前向きだ。
また、PaaSとして安定した環境が提供されるため、「バグが出にくいというメリットがある。一般的には、SIにバグはつきものだが、それがないのは大きい。その点でも手離れがいい。常に新しい案件に取り組めるのは、社員のモチベーションアップにもつながる。同じことを長く続けるのは、どうしても飽きてしまうので」と、吉田代表取締役は捉えている。
自社製品で技術力を確保
PaaSなどの環境が充実すればするほど、ツールで賄える部分が増えて、SIの余地が狭くなっていく。ファストSIがSIerにとってメリットがあるとしても、いずれは居場所を失うことになるかもしれない。
「ツールで実現できる部分をやっているSIerは淘汰されていく。ただ、SIが必要とされる部分は必ず残る。そのスキマにしっかり取り組んでいく」と吉田代表取締役。ソウルウェアは、ウェブ系のシステム開発で培ったUI(ユーザーインターフェース)の使いやさを強みとしている。PaaSで提供されるUIは汎用的な仕様となるため、ユーザーによっては使いにくいと感じる部分もある。そこで、ソウルウェアのノウハウが必要とされるというわけだ。とはいえ、その優位性もいつまで続くかわからない。吉田代表取締役は、「ツールは進化していくので、スキマは狭まり続けるだろうが、そこにハマる技術をしっかり身に着けていきたい」とし、将来に備えていく考えだ。
ソウルウェアは技術力を確保するため、kintoneと連携して帳票出力を行う「Repotone」や、交通系ICカードに対応した勤怠管理・交通費精算ソリューション「kincone」といった製品を自社で開発している。kinconeは、リリースから約1年で120社に導入されたという。
「ファストSIが進むと、新しい技術を学ぶ機会が減ってくる」ため、吉田代表取締役は自社製品の開発を社員が最新技術に触れる機会として捉えている。今後もソウルウェアは、ファストSIと自社製品の両輪でビジネスを推進していく考えだ。