夏。蝉の声が今年もにぎやかだ。成虫になった蝉は、約1週間で死ぬといわれる。夏の初め頃から歩道で蝉の亡骸をみかけるようになるので、確かに1週間で蝉が死ぬというのはあながち間違いではなさそうだ。
ところが、成虫になった蝉の寿命は1か月という説もある。なんでも、虫カゴで飼うとストレスで寿命が縮まるだけで、森で気持ちよく過ごして天命をまっとうすると、1か月近く生きるらしい。問題は、自由に飛び回る蝉をどのように観測するかにある。目視では不可能だ。
そこで、IoTである。蝉にストレスを与えない程度の軽い通信可能なチップを積めば、行動履歴から、いつからいつまで活動していたかが把握できる。1週間で死ぬ蝉が多く、まれに1か月生きる蝉がいるということもあるに違いない。1週間で死ぬのが蝉なら、1か月で死ぬのは“蝉ロング”といったところだろうか。ちなみに、蝉は暑いのが苦手との説もある。温度センサとあわせて行動を観測できれば、その説も裏付けることができそうだ。
観測でわかるのは寿命や行動かもしれないが、IoTの本質はそこではない。1週間だと思っていたことが、1か月だとわかれば、ビジネスモデルが変わる。いや、変えなければいけない。蝉向けの生命保険があるとすれば、“蝉ロング”を考慮した設計が必要となる。蝉が商品なら、保証期間を延ばすことも可能だろう。1週間が1か月なら、蝉ビジネスのあり方も変わる。そこにIoTの本質がある。
1週間で蝉が死ぬ説は、正確な観測手段がなく、感覚にもとづいたアナログな判断によるものである。対してIoTで観測した結果は、デジタルな判断といえる。このデジタルによってビジネスを変えていく、これを最近では「デジタルトランスフォーメーション」というようになった。
IoTでは膨大なデータを取得する可能性がある。ビッグデータである。そのデータ量は予測が難しいため、スケールしやすいクラウド環境が向いている。ビッグデータがあれば、AI(人工知能)を有効活用しやすくなる。IoT、ビッグデータ、クラウド、AI。これらは、デジタルトランスフォーメーションの基盤となる。
ところで、死期が近く動かなくなった蝉を突くと、急に飛び立ったりして驚くことがある。これは“蝉ファイナル”というらしい。
『週刊BCN』編集長 畔上文昭
略歴
畔上 文昭(あぜがみ ふみあき)

1967年9月生まれ。金融系システムエンジニアを約7年務めて、出版業界に。月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。著書に「電子自治体の○と×」(技報堂出版)。趣味はマラソン。自己ベストは、3時間12分31秒(2014年12月)。