ネットワーク越しに利用するクラウドコンピューティングは、場所を選ばない。首都圏だろうが、地方だろうが、同様に活用できる。とはいえ、クラウドへの取り組みについては、地域によってずいぶんと温度差がある。「オンプレから変わる気がしない」という地域も少なくない。ただ、ここにきてクラウドに対する風向きが少し変わりつつある。きっかけをつくったのは、製造業を中心に導入が進むIoT(Internet of Things)である。
オンプレミスで十分!?
クラウドでは、初期導入コストを抑えられるのと、導入のスピード、そして拡張性などがメリットとしてあげられる。ところが、古いシステムで十分とするユーザー企業には、なかなか響かない。そもそもIT投資に大きな価値を見出していないからだ。
「金沢ではオンプレミスで十分というユーザー企業がまだ多い。古いPCでも、壊れるまで使い続けるとの考えがある」と、石川県金沢市に本社を置くシステムサポートの能登満・専務取締役はいう。同社は東京のほか、大阪や名古屋に拠点を構えており、各地域と金沢ではIT投資の考え方に温度差を感じることがあるという。
名古屋市に本社を置くグローバルワイズの伊原栄一代表取締役は、「基幹システムをクラウドに移行するというケースはあるが、まだ少ない。ECサイトをクラウド化するなど、その程度。名古屋は慎重な企業が多いので、ある程度普及してから動くのではないか」と語る。愛知県は製造業が好調なため、IT投資も積極的で人手不足な状況が続いているが、基幹系システムなどではオンプレミスが根強いという。
青森県に本社を置くヘプタゴンの立花拓也代表取締役社長は、「感度の高いユーザーは積極的にクラウドを活用している。都市部と遜色がないのではないか。ただ、そうしたユーザー企業の数は少ない」と語る。クラウドに積極的なユーザー企業と、そうでない企業とで二極化されていて、中間層がないという。先進ユーザーを除けば「5年は遅れている」と立花社長は感じている。とはいえ、立花社長が立ち上げたAWSのユーザーグループ「JAWS-UG青森」では、当初は勉強目的の参加者が多かったが、最近では実際に活用しているユーザーの参加が増えてきていることもあり、今後の展開に期待している。
福岡を拠点に九州全域と首都圏でシステム開発を手がけるFusicの横田宏大・事業推進部門マーケティングチームマネージャーは、「福岡には大企業が多いが、積極的な企業があるものの、IT投資には慎重というのが現状」と語る。クラウドに対する認識は広がってきてはいるものの、多くがバックアップとして活用するなど、まだ限定的とのことである。こうした状況にあるとはいえ、「この1年でクラウドに対する認識は大きく変わった。セミナーやイベントなどの機会が増えたことで、クラウドの理解が進み、提案しやすくなった」と横田マネージャーは実感している。

“感度の高い人”の参加が多かったJAWS-UG青森だが、
今年に入ってからクラウドユーザーの参加者が増えている
地域の事例に期待
地域でクラウドが普及するには、「事例が大事」とシステムサポートの能登専務は語る。同社が得意とする医療分野では、「IT投資の優先順位が、セキュリティ、利便性、コストの順。クラウドに対しては、セキュリティを心配する声が根強く、結果的にオンプレミスになる」との傾向があるとしている。例えば、電子カルテのシステムをクラウド化するかどうかの判断では、「事例が求められるため、事例が豊富になれば普及が加速する」と考えている。
グローバルワイズの伊原代表取締役も、事例の必要性を説く。「名古屋は、新しいことに慎重な地区。ある程度普及してから動き出す」とのこと。この状況は、青森や福岡も似ている。なかでも「地場の大手企業が採用すると、普及しやすい状況になる」(ヘプタゴンの立花社長)と、地域に影響のある企業の動きに期待している。
クラウド普及のカギはIoT
地域ではクラウドの採用に慎重な状況にあるとはいえ、その多くは、これまでオンプレミスで活用してきたシステムの話。オンプレミスからクラウドへのリプレースが進んでいないということを意味する。一方で、新規のIT投資となる分野では、話が変わってくる。なかでも注目はIoTだ。
「中部地区は製造業が最先端なので、IoTに対する注目度が高いのが特徴。IoTでは、データ量が読めなかったりするため、初期投資を抑え、拡張しやすいクラウドが有効。当社からIoTを提案する場合も、クラウドが自然と含まれる」と、グローバルワイズ伊原代表取締役は語る。システムサポートの能登専務も「製造業を中心に、IoTに興味をもつ企業は多い。そこではクラウドが活用される」と語る。石川県もIoTに力を入れていて、追い風になっているという。
IoTにはクラウドの採用が最適とするのは、Fusicの横田マネージャーやヘプタゴンの立花社長も同意見で、IoTには大いに期待している。
首都圏では「クラウドファースト」の考え方が定着しつつあるが、地方に波及するまでにはもう少し時間がかかりそうだ。ただ、製造業を中心に採用が進むIoTは、工場が対象となることか多いため、むしろ地方型といえよう。IoTによって、首都圏とは違ったかたちでクラウドが普及すると期待される。