福岡県が本拠地のHATは、通販事業者が多い土地柄から、ECサイトの構築でユーザー企業を獲得するケースが多い。ユーザー企業からは、ECビジネスを成長に導く功労者と評価され、構築依頼の問い合わせが殺到しているという。通販業者向けECサイト構築が安定的に伸びているわけだが、加えてHATの南壽郎代表取締役がビジネスを拡大しようとしているのが、インバウンド向け団体旅行ツアー管理システムの展開だ。2020年に向けて増える可能性が高い外国人観光客に、旅行会社が対応できる環境の整備に力を注いでいる。(取材・文/佐相彰彦)
Company Data会社名 HAT
所在地 福岡市中央区渡辺通2-7-14 パグーロ薬院4F
設立 2004年10月20日
社員数 約10人
事業概要 ECサイト構築、ウェブサポート、サーバー・ホスティング
URL:https://www.hat.ne.jp/ 「旅行会社と観光客をつなぐ」で起業

南 壽郎
代表取締役 南代表取締役が起業したきっかけは、アジア圏を中心に観光で福岡県を訪れる外国人が多く「せっかく日本(福岡県)を旅行してくれるのだから『また訪れたい』という気持ちになってほしい。その手助けはできないか」と思い立ったことだ。旅行会社による接客の向上が、外国人を福岡県に再び取り込むことにつながると判断し、ハットネットワークスを設立、インバウンド業向け客室予約管理システムの提供を開始した。07年には、HATに社名変更している。なお、社名を「ハット(HAT)」としたのは日本語の「ハッとする」という驚きの意味と、「Human and Technology」という二つの意味から。ユーザー企業が驚いて、しかも最新の技術を使って人間味のあるサービスを提供するという想いが込められている。
同社では、レンタルサーバーの提供やウェブサイトの制作などのビジネスを展開しながら、ECサイトの構築を手がけている。「福岡県を中心として九州には、通販業者が多く競争が激しい。当社がECサイトを構築したからには、ユーザー企業が成長できるようにしたい」との考えからサイト構築の事業を始めたそうだ。
実際に、通信販売のトーカ堂や八百屋のJR九州ファームなど九州を本拠地とするユーザーを獲得し、それらの企業の成長を後押しした。これが口コミで広がり、築地市場に精通した仲卸が選ぶ食材を販売するサイト「築地卸どっとこむ」を運営する、大阪にオフィスを構えるナインブロックをユーザーとして獲得するなど、地域を問わずにビジネスが広がっている。収益も順調に伸ばしている状況だ。全国展開に向けて、今年9月には東京オフィスも開設した。
九州を元気にしたい
南代表取締役は福岡に本社をもつ業務ソフトメーカーの応研に入社、その後HATを起業した。福岡県にこだわるのは、鹿児島県指宿市出身ということもあって「ITの力で九州を元気にしたい」との想いがあったからだ。大学時代から福岡県に住むようになって「なんて栄えているんだ」と実感。街が活性化している原動力の一つは観光だ。福岡は、韓国のソウルやプサン、中国の上海などアジアの主要都市が1000km圏内にあって、22の都市に定期便があることから、「アジアのゲートウェイ(玄関)」といわれており、魅力の一つになっている。ECサイトの構築で多くのユーザー企業を獲得し、自社のビジネスが全国に広がりつつあるのはよいことだが、「九州の主要産業の一つである観光を盛り上げて九州を元気にしたい」。そのためにインバウンド向け団体旅行ツアー管理システムの提供に力を注いでいるのだ。
旅行会社を取り巻く環境は、さまざまなツアーの予約がある一方、変更やキャンセルも多い。予約や予約の変更・キャンセルをFAXなど紙で行っていて、管理が煩雑になっているのが今の状況だ。HATが提供するインバウンド向け団体旅行ツアー管理システムは、ユーザー企業から管理が楽になったとの評価を受けているほか、ツアー客からも使い勝手がいいとの声が出ている。「使ってもらえば、よさがわかる」と南代表取締役はアピールする。
価値あるツアーの提供を支援
今、旅行会社が抱えている一番の課題は、低価格競争に伴う収益の減少だ。「業務効率化だけでIT化を図るのは厳しいという旅行会社が多いのが現状」と南代表取締役は捉えている。
そのため、今後は旅行会社が成長するための機能強化を模索している。「他のITベンダーと協業して新しいソリューションをリーズナブルな価格で提供する」との方針を示している。そのような製品・サービスを創造して成功事例をつくって、「オンプレミスならパッケージ化して安く提供するようにしたり、クラウドサービス化してユーザー企業が月額料金で手軽に利用できたりすることにも取り組んでいきたい」とのことだ。
南代表取締役が描いているのは、「日本は“おもてなし”が評価されて観光地に選ばれている。旅行会社が業務を効率化しながら観光客へのサービスの向上を実現する環境を整備する」ということだ。HATへの想いもそこにある。