AI(人工知能)を巡る今回の一連のオープンイノベーションは、実はTISにとっても異例の取り組みだった。今年7月に大阪大学、8月にはこだて未来大学と矢継ぎ早に共同研究を発表。さらにスタートアップ企業のエルブズも巻き込んだオープンイノベーション方式を全面的に採り入れたのは、「今回が実質的に初めての取り組み」(油谷実紀・フェロー戦略技術センター長兼AI技術推進室長)。産学連携そのものは、過去にも経験があるものの、これだけのスピード感をもって協業の枠組みを構築したのは例がないという。(
安藤章司)
こうした機会に恵まれた背景には、TISの技術者らによる日頃からの「情報発信」が効を奏した。TISは、ITのさまざまな分野を手がける総合SIerであり、よほどTIS側から働きかけをしない限り、TISがAIに関するどういった技術を保有し、どうビジネスにつなげようとしているのか、また、今後、どうした研究がしたいのかなかなかみえてこない。
そこで役立つのがTISの個々の技術者が日頃の研究成果や興味のある技術分野について書き連ねたブログやソーシャルメディアの記事。専門的な記事であるため、一般人にとっては難解な「技報」のようだが、「その分野の専門家であれば、『あぁ、これね、確かに課題だよね』などと興味を示してくれる」(油谷フェロー)ようになった。
ネット上で自分の技術を開示することで、その分野に興味がある研究者や技術者のコミュニティが自然と形成されるようになり、間接的にスタートアップ企業との協業や、大学をはじめとする研究機関との共同研究を、よりスムーズなものにしているという。例えば、スタートアップ企業であればCTO(技術担当役員)、大学であれば当該研究をしている研究者や教授と、いかにパイプをもつかが重要になる。このパイプづくりによって、理想的なオープンイノベーションの枠組みがつくれるかどうかが左右される。何の前触れもなく、いきなりスタートアップ企業や大学の門を叩いていては、「うまくいくものもうまくいかない」(同)。

技術者ブログや技術者コミュニティで、どういった技術を開示するかは、油谷フェローが、直接、技術者を指導することもあるといい、日頃からの適切な技術メッセージの発信が、オープンイノベーションを側面から支えているといえそうだ。