ケープロジェクトは、SEがキャリアを伸ばせる事業構造へと大きく舵を切っているSIerだ。独自のサービス型商材の開発や、オープンイノベーション手法の採用、元請け案件を増やすなどの施策を通じて、技術者が成長できるビジネス環境を整備。情報サービス業界の慢性的な人手不足のなかにあって、ここ数年で社員数を大きく増やすことに成功した。ケープロジェクト創業者の北原岳代表取締役は、「2020年までをめどに社員数を100人規模へと倍増させたい」と、意欲を示している。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 ケープロジェクト
所在地 東京都千代田区
資本金 2000万円
設立 1993年4月
社員数 約45人
事業概要 群馬県安中市で創業したケープロジェクトは、2006年に東京へ本格的に進出。客先常駐によるソフト開発を手がける一方、独自商材のクラウド型出退勤管理「クラウドノーツ」を開発。元請け案件ではネット通販やオムニチャネルを得意としている。
URL:http://www.kproject.co.jp/ “代官山の挫折”で方針転換へ

北原 岳
代表取締役 ケープロジェクトは、1993年に北原氏が35歳のときに脱サラして起業したSIerである。創業の地は、北原氏の生まれ故郷の群馬県安中市。実質、1人で創業した。仕事は主に都内での客先常駐をこなしていた。その後、1人、2人と仲間を増やして、2006年に念願の東京本社を渋谷区・代官山に開設している。SEの仕事は、なんといっても都内が多く、客先常駐の仕事にある程度のめどがついたことからオシャレな街で有名な代官山に本拠地を置き、人員も20人ほどに拡大した。
すべてがうまくいっているようにみえたケープロジェクトの事業だったが、ここで大きな壁にぶつかる。北原氏は自ら率先して客先常駐のSEとして仕事をこなしてきたこともあり、当時は社員のキャリアパスのことまで十分に気が回らなかった。客先常駐は一般的に45歳を過ぎると受け入れ先のユーザー企業から拒まれることが少なくなく、それ以降のキャリアパスが描きにくい。こうした課題に目を背けたまま事業拡大に向けて舵を切り、異論を唱えるSEらと対立してしまう。仲間のSEは1人欠け、2人欠けと、社員を増やすどころか「どんどん減ってしまう」(北原代表取締役)憂き目にあう。いらゆる“代官山の挫折”である。
初の「サービス型商材」を開発
“代官山の挫折”で行き詰まった北原代表取締役は、経営方針を大きく転換する。当座の売り上げを確保するため客先常駐を続けながらも、元請け案件を増やしたり、自社独自のサービス型商材の開発、同業者やユーザー企業と一緒になって研究開発を行うオープンイノベーションの手法を採り入れることを決意。12年にはオフィスも、代官山から秋葉原へ移転した。
秋葉原オフィスでは、フリースペースを広くとって社内外の人と交流できる場所を確保。さらに毎週のように「ビジネス創造会議」の名称で有志社員が集まり、オリジナルの商材開発や元請け案件獲得に向けた提案内容を議論する場としても活用している。こうして生みだしたのがクラウド型出退勤管理「クラウドノーツ」だ。Suicaなど交通系ICカードをカードリーダーで読み取ることで出退勤を管理するもので、ソフトウェアはSaaS/クラウド方式で提供。従業員数10人までなら初期費用2万2500円のみで使え、11人目からは1ユーザーあたり月額200円と割安に抑えているのが特徴。中小企業の顧客を多く抱える社会保険労務士などを通じて販売をスタート。
クラウドノーツをはじめとするサービス型商材の開発が評価されるかたちで、15年3月には中小企業の新しい事業活動を促進することを目的とした東京都の「経営革新計画」の承認を受けている。一方で、元請け案件では、もともと強みとしてきたネット通販(EC)関連の技術を生かして、小売業の通販サイトやオムニチャネル関連の開発が順調に伸びている。
バランスよく成長して100人規模へ
直近の売上高構成比は約9割が従来型の客先常駐、残り約1割が元請け案件ならびに「クラウド型出退勤管理」に代表されるサービス型商材が占める。客先常駐をやめるわけにはいかないが、それでもやる気さえあればSEのキャリアパスにつながる環境を整備できたことは大きい。社員数も徐々に回復し45人規模まで増えてきた。
実は“代官山の挫折”に遭遇する前の一時期、中堅・中小のSIerが抱える経営課題を洗い出して、改善していくことを目的としたJASIPA(ジャシパ、日本情報サービスイノベーションパートナー協会)に加盟したものの、当時は「売り上げにつながらない」(北原代表取締役)と、まもなく脱退した経緯がある。しかし、経営方針を転換し、秋葉原に引っ越してからは、再びJASIPAに加盟。同じような課題を抱える経営者らとともに、情報サービス業界に共通した課題や、SEのキャリアパスについて積極的に問題を提起して、解決への糸口を探る活動に参加するようになった。
北原代表取締役は「2020年までをめどに100人規模へと拡充したい」とし、実現の折には、「客先常駐」と「独自のサービス型商材」「元請け案件」の売上高構成比をバランスよく保つことで、SEのキャリアパスを描きやすくし、SIerとしての競争力の強化にもつなげていく方針だ。