富士通本体と11月1日付で統合した旧富士通システムズ・イーストでは、オープンイノベーション手法を採り入れるにあたって、まずは(1)顧客との協業を優先。そして、(2)徹底したフィールドワークを追求することで、(3)課題の本質の洗い出しに努めている。(取材・文/安藤章司)
研究開発や商品開発では、どうしてもつくり手のつくりたいもの、技術者として関心の高い技術を使いたくなるものだ。モチベーションを高める効果があるとはいえ、受注に結びつかなければ、ビジネスとしてみた場合、やはり失敗の判定を下されてしまう。そこで、SEや技術者にまずは客先に出向かせ、「徹底したフィールドワークに従事させる」(中崎毅・ビジネス戦略本部長)ことで、課題の本質を洗い出すよう指導している。

中崎本部長は、オープンイノベーション手法を採り入れた研究開発を自ら率先して実行に移してきたキーパーソンだが、ここ1年半ほどは同手法が全社的な取り組みとして位置づけられたことから、もっぱら“アクセラレーター役”を担うようになった。社内の各事業部門がオープンイノベーションの特性を正しく理解し、受注につなげられるよう支援するのがアクセラレーターの役割だ。
今回の巴コーポレーションとの協業で実現したAR(拡張現実)を活用した品質検査では、出荷前の作業現場で、誰でも一目でわかるよう視覚的にCADの設計データと重ね合わせられるようにした。目的は設計との差異によって手戻りが発生しないようにするためだが、新規性の本質は、現場での簡単な作業で、精度の高い検査が可能になったことだろう。従来の目視のみの検査方法に比べておよそ10分の1に時間を短縮できるすぐれものだ。これはフィールドワークなしでは気づき得ないものだし、実証実験を行わずにいきなり受注して、構築するアプローチでも恐らくうまくいかない。
中崎本部長らが中心となったアクセラレーターは、事業部門のSEが「顧客との協業」「フィールドワークの徹底」「課題の本質」の洗い出しの基本を踏み外さないよう指導するとともに、現場のSEが顧客とともに「自信をもって」イノベーションに臨めるよう助言しているという。「自信がなさそうなら誰もついてこない」(中崎本部長)と、マインド面でも強くなることがイノベーションを起こすうえで大切なポイントになると話す。