インターネットの第1の波は「ウェブ」、第2の波は「ソーシャル情報検索」、そして、第3の波は「IoT(Internet of Things)」あるいは「人工知能」や「ビッグデータ」といわれているが、これらは「Cyber Twin」さらに「Cyber First」と捉えるべきだろう。具体的には、以下の二つの変革・進化が、第3の波として起こりそうだ。
一つは、サイバー空間が実空間に「染み出す」ということ。現在のIoTは、実空間の「スマート化」とも呼ばれ、サイバー空間が物理空間の神経系として、実空間の管理・制御を担っている。現在の「物理空間のスマート化」に続いて、サイバー空間の計算能力の向上は、実空間のコピーをサイバー空間で作成し(Cyber Twin)、実空間を制御するように進化している。次の段階として、サイバー空間で、CPS(Cyber Physical System)のほぼ完全な設計・シミュレーションを行い、その結果にもとづいて必要な実空間の物理オフジェクトを生成するようになりつつある。いわば、「Cyber First, Physical Second」である。
このようなシステムは、「ソフトウェア・デファインド(Software Defined)」のシステムと呼ぶことができる。実空間の設計を、すべてソフトウェアで行うからである。Software Definedのシステムにすることで、迅速な設計や修正が可能になり、Agility(迅速性)と Flexibility(柔軟性)が劇的に向上することになる。
二つめは、物理法則を「超越する」、人間の知識と「交じり合い・混じり合う」ということ。サイバー空間は、実空間の法則、とくに 時間と空間に関する法則を超越することになる。人は、サイバー空間を利用することで、実空間の物理法則に縛られない「超能力」を手にできる。その結果、「サイバー空間が実空間を超越し、さらに設計する」のである。
さらに、人工知能によって人間の知識や経験がオンライン化され、収集・集約されて莫大なデジタルデータとなって、解析可能となりつつある。すなわち、人間の知識・経験がデジタル化・オンライン化・ネットワーク化されることで、サイバー空間と「交じり合い・混じり合う」ことになる。その結果、サイバー空間は、「人・脳」を超える存在となる。これを、人工知能の領域におけるSingular Pointと呼ぶ人も少なくない。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。