SIerに対する批判として、「ユーザー企業の言いなり」がある。要望に応えるには、言いなりであることが近道であり、まっとうなプロジェクトであればリスクも小さい。それゆえ、言いなりになりがちになるが、「もっとプロとしての提案が欲しい」と望むユーザー企業にとっては不満となり、SIerの批判へとつながっていく。もちろん、すべてのSIerが言いなりではない。「要件を聞いて、IT化の意味がなければ断る」。提案力を重視するアイエフエスの佐藤昭弘代表取締役は、そう断言する。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 アイエフエス
所在地 東京都中央区
資本金 4000万円
設立 1997年7月
従業員数 20人
事業概要 システム開発、ネットワーク構築、パッケージ製品開発
URL:http://www.ifscorp.co.jp/
意味のあることに時間を使う
「エンジニアにSIerとしての自覚があるのか。ユーザー企業に失礼ではないかと思えるような対応をするエンジニアが多すぎる」と、佐藤代表取締役はエンジニアに対する不満を抱いている。ユーザー企業はITのプロではない。そのため、SIerは要件をしっかり聞き出して、最適な提案をすべきで、指示待ちのエンジニアではユーザー企業を不幸にするというわけだ。そして、佐藤代表取締役はこう続ける。「言われたことをこなせば100点。そう考えているエンジニアが多すぎる。ムダだとわかっている作業でも指摘しない」。
佐藤昭弘 代表取締役(写真左)、山中義晴 営業部長
創業時のSIerは、エンジニア派遣やSES(System Engineering Service)を事業の中心とするケースが多い。経営が安定した後は、エンジニアを増やしてSES事業を大きくするか、新たな事業に着手する。アイエフエスは、まずSESから受託開発へのシフトを進め、同時にパッケージシステムを開発し、事業の柱とすることを目指している。脱SESで重視しているのは、提案力だ。
「要件を聞いて、IT化の意味がなければ断っている。ITじゃなくても解決できることはある。何回もヒアリングして、結論としてIT化が不要という着地もあった。システム開発は時間とお金がかかる。当社としても、意味のあることに時間を使いたい。ムダな時間とお金は、互いに避けたい」(佐藤代表取締役)。このスタンスがユーザー企業の信頼へとつながり、SESから受託開発へと順調にシフトしてきている。SESよりも受託開発はリスクが高いという点でも、高い提案力が必要となる。
アイエフエスが脱SESに取り組み始めたのは、10年程前になる。しかし、SES事業が順調なことから、受託開発へのシフトはなかなか進まなかった。本気で取り組み始めたのは5年ほど前。きっかけは、労働者派遣法の改正だった。「SESではエンジニアが育ちにくいし、やりたいことができない。おもしろくないし将来が不安だから、エンジニアが辞めていってしまう。本当の意味でSIをやる。ユーザー企業の目線で役に立つことを考える。この意識を各エンジニアがもつべき」との思いを改めて強くしたという。以降、受託開発へのシフトは順調に進んでいる。「受託開発はリスクが高いものの、しっかり構築できれば価値をアピールできる」と佐藤代表取締役は実感している。
自社プロダクトにも着手
アイエフエスは、もう一つの事業の柱として、自社プロダクトにも取り組んでいる。開発したのは、標的型攻撃メール対策の「プレビューメール」。アイエフエスにはセキュリティ関連のノウハウがあったことと、佐藤代表取締役自身がランサムウェアに感染したことが、開発のきっかけとなった。「感染時には気づかなかったが、身代金の要求がきて、初めてランサムウェアだとわかった。もちろん、身代金を支払うわけにはいかないので、感染したファイルはあきらめることに。この経験をきっかけに、マルウェアのほとんどがメール経由で感染していることを知り、プレビューメールの開発にたどり着いた。
プレビューメールの仕組みは、メールに記載されているURLや添付ファイルをクラウド上の仮想空間で開いてプレビューすることにより、ウイルスかどうかを確認するというもの。「添付ファイルは、開かないとウイルスかどうかがわからないものがある。また、ウイルスに感染していても、内容を確認したいファイルがある。プレビューメールでは、仮想空間で開くのでPCに感染しないし、いつも通りのオペレーションで添付ファイルを利用できる」と、山中義晴・営業部長はアピールする。プレビューメールは現在、特許を出願中。販売パートバナーを募集し、医療機関や地方自治体を中心とした展開を予定している。
プレビューメールにより、受託開発と自社プロダクトの両輪でビジネスを展開する環境が整った。二つの事業を強化していくことで、佐藤代表取締役はSIerのあるべき姿を追い求めていく。