首都圏のシステム開発を長野で担う。いわゆるニアショア開発となるが、ケイケンシステムの青柳和男代表取締役会長は、それを「リモート開発」と呼び、推進している。働き方改革の推進では、テレワークやリモートワークが推奨されていることもあって、地方でシステム開発を行うためのインフラも十分に整っている。もはや、システム開発の場所は問わない状況にある。「長野は人材も豊富」と、青柳会長。首都圏よりも優秀な人材を確保しやすいという。県内の案件も多くこなす同社だが、現在では約6割が首都圏で獲得した案件となっている。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 ケイケンシステム
所在地 長野県長野市
資本金 7500万円
設立 1974年9月
従業員数 176人
事業概要 システムインテグレーションサービス、システムコンサルティング、システム設計、プログラム開発、アプリケーションシステム開発、LSI・ASIC設計、電算室運用管理
URL:http://www.keiken.co.jp/
パンチセンターからスタート
青柳和男
代表取締役会長
ケイケンシステムの設立は、1974年9月。汎用機で扱うデータをパンチカードに入力するパンチセンターとしてスタートした。「当時は人件費の格差が大きく、労働力を求めて、首都圏の企業からデータ入力の依頼が多かった」と、青柳会長は当時を振り返る。並行して徐々に販売管理や生産管理、経理処理、給与計算といった業務システムの開発を手がけるようになる。オフコンが普及し始めた頃には、地元の長野県内で200社を超えるユーザーを抱えていた。
現在は、県内の案件では生産管理などの製造業系のシステムが多いという。ただし、県内案件は4割程度で、その他は首都圏で獲得した案件を長野にもち帰って開発している。
「システム開発は地方で対応できる。首都圏でなくてもいい。地方創生を実現するためにも、首都圏から地方にシステム開発を出すべき」と青柳会長は考えている。ケイケンシステムでは、可能な限り、上流工程から長野にもち帰るようにしている。一気通貫で、ユーザー企業をサポートできるのが、同社の強みである。
ケイケンシステムの社員は、長野県出身者が多い。「県内では、優秀なエンジニアが確保しやすい。首都圏よりもいいと感じている。また、長野はUターンやIターンの人気が高く、中途採用もしやすい」と青柳会長。とはいえ、地域におけるIT産業の発展を考えると、IT関連企業の集積度が高いほうがいい。そこで青柳会長は、長野市の「長野市ICT産業誘致・起業プロジェクト」などに協力し、長野をソフトウェア産業の集積地にすることを目指している。
工場系でIoT関連に注目
製造業に強いケイケンシステムでは、最近のトレンドとして、IoTに関連する問い合わせが多いという。「センサの低価格化が進み、ビッグデータを処理できる環境が整ったことで、IoTに関心をもつ企業が増えた。ブレイクすると感じている。IoTに関連するインダストリー4.0については、まだ聞かない。ただ、ビジネス環境は変わりやすく、ユーザーのニーズも大きく変化することがある」と語る青柳会長は、そうした変化に柔軟に対応可能な対策が必要だと感じている。
また、IoTの適応については、「機械にセンサを取り付けてデータを取得するだけではおもしろくない。生産管理はあたりまえの範囲。革命ではない」と青柳会長。取得したデータをいかに活用するかに関心を寄せている。
ちなみにケイケンシステムは、かつてゲーム開発会社のガストがグループ内にあった。家庭用ゲーム機向けの「マリーのアトリエ」シリーズなど、数々のヒットを飛ばしたゲーム会社である。「以前から技術力に自信があった。その技術力をアピールしたいと考え、始めたのがゲーム開発」と青柳会長は語る。ゲーム会社は、2011年にコーエーテクモグループに売却したが、現在でも技術力には自信をもっている。
AIでシステム開発が変わる
青柳会長は今後、システム開発の機会が減っていくとみている。理由はAI(人工知能)の普及だ。「AIが人の仕事を奪っていくのは事実だと思う。コンピュータが登場したときも、人の仕事の多くが奪われた。コンピュータの進化の歴史は、人の仕事を奪う歴史だといえるのではないか。AIがシステム開発を担うようになっても不思議ではない」。なかでもプログラミングは、AIが担う可能性が高いとしている。
そうしたなかで残るのは、顧客要求を具現化する部分とのこと。「システムの設計や要求分析はなくならない。そこはSIerのノウハウが生きる部分で、やりがいのある部分でもある」と、青柳会長。付加価値となる部分を磨いていく考えだ。