アッチェレランド(accelerando)。音楽の速度表示で「次第に速く」を意味する。英エコノミスト編集部が刊行した「2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する」(2017、文藝春秋)には、現在みえている技術の兆しから、50年に訪れるであろう未来について書いてあった。
量子コンピュータが実用化され、宇宙旅行ができるようになり、多くの仕事はコンピュータとロボットがこなすようになる。コンピュータ技術の進展はアッチェレランドで、今後ますます加速度を増すと考えられている。
そうしたなか、私たちはどのような役目をもつ動物として地球上に存在するのであろうか? 目の中に入れられたレンズを通じて、没入感に浸り「死ぬ前に行っておくべき世界の絶景」を座り心地のよいソファーに座りながら、くまなく見ていればいいのであろうか? ありがたいことに、私たちの目の前には、次から次へと難題が現れてくれる。ハイ、これで課題は終了!ということはない。
企業や地方自治体の新人研修で行っているコースに、「構造化思考」がある。事象の全体を把握し、そこにある事象を構造化して理解する。構造化ができれば、時間や資源の有効な使い方は優先順位の問題になるので、難しくはない。日本人は優先順位づけには才能がある。
生産ラインで起こっていること、アフターサービスの現場で起こっていること、地域社会で起こっていることを構造化して記述することは、課題の整理と課題の共有に絶大な成果をもたらす。トヨタの「なぜを5回繰り返す」も、真因にたどりつくための構造化アプローチだ。そもそも世の中にビックリするような解決法はなく、多くの場合、課題を整理する段階で解決法がみえてくる。
ところが、重要な考え方の技術である構造化を教える教育プログラムがない。小学校でも、中学校でも、高校でも教えてくれない。優秀な生徒は、自発的に学んだことを構造化してノートに書き、構造化して理解する。
単純作業が自動化していき、コンピュータやロボットに置き換えられるようになっていく今、初等教育からの構造化を学ぶ授業のカリキュラムへの追加が望まれる。構造化による理解の的確さと速さは、より高度な課題の出現を招くかもしれないが、それはそれで喜ばしいことだと私たちは歓迎せねばならない。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。