金属加工メーカーの久野金属工業を親会社にもつマイクロリンクは、創業当初にPCをネットワークにつないで工場内の機械を制御することに取り組んだ。現在でいうところのIoTである。以降はPCを中心にシステム開発を主な事業としてきたが、ここ数年はクラウドファーストを掲げ、クラウドを活用したサービスの提供へと事業内容を転換してきている。クラウド案件の数は順調に増えているという。最近では、親会社とともにIoTに取り組んでいる。東海地区では製造業が多いこともあり、構築したサービスの横展開に期待がかかる。(取材・文/畔上文昭)
クラウドは生産性が上がる
久野尚博
代表取締役
日本は、他国よりもクラウドへの取り組みが遅れているといわれることがある。真偽のほどはともかく、その原因としてやり玉にあげられがちなのが、SIerだ。曰く「ハードウェア分の売り上げが減るのを嫌うため」。もっともらしい指摘だが、久野尚博代表取締役の見解は違う。
「ハードウェアは、もともと利益率が低い。むしろ、ハードウェアを提供することで、トラブルに振り回されることがある。そこから解放されることを思うと、SIerにとってクラウドはメリットになる。クラウドでは、ハードウェアよりも、ソフトウェアの影響のほうが大きい。さまざまなサービスが登場し、簡単に使えるツールも多い。システム開発が必要な部分は、確実に減っていく」。久野代表取締役はクラウドが主流になると考え、避けるのではなく、取り組むことにした。
「API連携によって、ちょっとした作業でも、すごいものができる時代になった。これを嘆くのではなく、むしろシステム開発の生産性がアップしたと捉えるべき」。マイナス思考ではなく、プラス思考でクラウドへの参入を決めた。
現在ではクラウドファーストを掲げるマイクロリンクだが、「クラウドでいける」と感じたのは、3から4年前だという。
「2000年までは、PCとLANでソリューションを提供するという確かな方向性があった。そこにインターネットが入ってくることになるが、どのように業務で活用するのかが明確ではない時期があった。インターネット自体が貧弱だったこともあって、ユーザー企業では危ないというイメージが強く、提案も難しい状況が長く続いた」と、久野代表取締役は当時を振り返る。さまざまなクラウドサービスが出てきても、ユーザー企業には危険というイメージが強く、敬遠されがちだった。
「風向きを変えたのは、マイナンバー(社会保障・税番号)制度。マイナンバーをクラウドで保管するというサービスが出てきたことで、クラウドのほうが安全という認識がユーザー企業に根づいてきた。今ではオンプレミスのほうが危ないという説明ができる状況にある」と、久野代表取締役はユーザー企業を取り巻く環境の変化について語る。
いずれはサービス事業者に
マイクロリンクは、親会社の情報システムを担う一方で、外販にも注力している。14人の社員のうち、営業の担当者が3人、SE兼営業が2人という組織なのは、そのためだ。SES(System Engineering Service)も手がけてはいるが、基本はユーザー企業への直接の営業で案件を獲得し、社内でシステム開発を行っている。
「企業のシステム開発を担う一方で、ユーザーニーズをつかみながら、常にパッケージ化を目指している。これまでも、たくさんのパッケージ製品をリリースしてきた。最近では、クラウドサービスの開発に取り組んでいる。こうしたパッケージ化やサービス化は、社内にエンジニアがいないと実現できない」と、久野代表取締役は元請けにこだわる理由を語る。
クラウドファーストを掲げてからは、マイクロリンクではクラウドサービスの開発に注力している。主力のサービスは、名刺管理サービスの「Sansan」の名刺データをマイクロソフトの「Office 365」へと自動登録する「Perfect Contact365」。業種に関係なく、引き合いが多いという。今後もクラウドサービスの開発を進め、いずれはサービス事業者になることを目指している。
また、最近では親会社と連携し、IoTサービスの開発も手がけている。工場内の機械にセンサを設置し、稼働状況の監視や分析を行い、生産の効率化や加工時間の短縮を目指すサービスである。「今後は機械の故障予測などにAIを活用していきたい」と久野代表取締役。IoTの先を見据えている。