情報技術センターは、20年近く時間をかけて徐々にエンドユーザーからの元請け(プライム)受注を増やしてきた。近年のデジタライゼーションの流れのなかで、ユーザーの事業部門の予算でIT投資を行うケースが増えていることから、従来の発注窓口だった情報システム部門との距離感も変わってきているという。プライム受注の拡大からユーザーとの新しい関係づくりに意欲的に取り組んでいる。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 情報技術センター
所在地 東京都港区芝
設立 1968年1月
資本金 9800万円
社員数 約210人
事業概要 システム共通基盤の「intra-mart」や、データベースソフトの「eBASE」などを活用した高効率のSIを得意としている。eBASE社とは、業界団体の日本情報サービスイノベーションパートナー協会(JASIPA)での活動がきっかけで協業するようになった。
URL:http://www.itc-net.co.jp/
客先常駐で業務を深く理解する
宇野公也取締役(左)と多田宜幹顧問
情報技術センターは、富士通のビジネスパートナーとして金融や公共の領域を中心に実績を積んできた。しかし、下請けだけでは企業の成長に限りがある。そこで同社が新しい領域として選んだのは、エンドユーザーと直接取引するプライムビジネスだった。同ビジネスを推進し始めた1999年当初は「商談のとっかかりとなる商材が希薄だった」(宇野公也・取締役営業部統括部長)と振り返る。
そうしたなかで着目したのが、当時はまだ目新しかったNTTデータ イントラマートの「intra-mart」。ソフト開発の生産性を大幅に高め、システム間の連携もとりやすいシステム共通基盤をテコに、エンドユーザーの業務上の課題を解決する切り口で顧客開拓の端緒を開いた。そしてプライム案件でも、可能な範囲でエンドユーザーの客先に常駐させてもらい、開発作業に従事。同時に、顧客はどんな業務で課題を抱えているのかをつぶさに観察する。こうすることで顧客の業務への理解度を高め、解決方法を提案するアプローチを重視した。宇野取締役が配慮したのは、顧客の業務を深く理解し、顧客のやりたいことをシステムに落とし込むSIer本来の仕事をプライムでもしっかりこなすことだった。
実は、富士通のビジネスパートナーとしても、富士通と一緒になって顧客の業務課題を真摯に理解しようとする姿勢が評価され、数あるパートナーのなかから早い段階で頭角を現してきた。これまで培ってきた企業文化をプライム領域でもうまく生かすことで、直近では売り上げの半分ほどがエンドユーザーからのプライム案件で占めるまで拡大している。
情シスと事業部門の微妙な関係性
ここ数年は、デジタライゼーションの流れのなかで、「エンドユーザーのなかのIT投資の意思決定のプロセスに変化がみられる」と、宇野取締役は指摘する。AI(人工知能)やIoTの活用で、現業の事業部門の予算で投資するケースが増え、発注の主体が従来の情報システム部門だけではなくなっているという。
では、事業部門への接近はどうすればいいのか――。情シス部門と事業部門の関係は、会社によって微妙に違う。事業部門が推進するデジタライゼーションに積極的に関わりたい情熱的な情シスがあれば、セキュリティやユーザー権限といった最小限の管理・監督にとどめ、基幹系システムの運用に専念しようとする情シスもある。
前者の場合は、情シスと事業部門のあいだに無理に割って入らず、むしろ「レガシー(基幹系)システムを当社がすべて請け負って、情シスはデジタル新領域のリリースを割けるようにする」くらいの提案が刺さると、ユーザーのIT投資動向に詳しい多田宜幹・営業部顧問は指摘している。後者の場合は、情シスの顔を立てつつも、事業部門が求める最新の技術の目利きをして、ユーザーが望むようなデジタライゼーションを実現させる。
フルアウトソーシングにせよ、最新鋭のデジタライゼーション技術にせよ、「富士通と一緒に仕事をしてきた経験がよく生きる」(宇野取締役)という。富士通がとる案件は大手ユーザーで、最先端の技術や新しいコンセプトにもとづくサービスなど、幅広い。これをそのまま中堅・中小のユーザーにもってくることはできないが、それでも参考になる部分は大きい。社内でこうしたノウハウを共有しつつ、プライムとパートナービジネスを適度にバランスさせた経営が、ビジネスを伸ばすカギを握ると情報技術センターでは考えている。