受託開発をビジネスの中心に据えてきたSIerは、クラウドに乗り遅れるというのがありがちなケース。当初は、ユーザー企業がクラウドを望んでいなかったからだ。それが普及期に入ったことで、ユーザー企業もクラウドを強く意識するようになる。それをみて慌ててクラウドに取り組んでみるも、いち早く取り組んできたSIerに追いつける気がしない。SIerでよく聞く課題である。ところが、セントラルソフトサービスは、受託開発を中心としてきたにもかかわらず、スムーズにクラウドをビジネスに取り入れた。なぜ、それができたのだろうか。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 セントラルソフトサービス
所在地 愛知県岡崎市
資本金 5000万円
設立 1979年5月
社員数 30名
事業概要 システム開発、パッケージ開発と販売、サービス開発を販売など
URL:http://www.css-snet.co.jp/
社長交代でクラウドへシフト
清川高史
代表取締役社長
1979年の会社設立以来、受託開発を中心にビジネスを展開してきたセントラルソフトサービス。大手SIerからの案件が中心だった。当初は、汎用機やオフコンで稼働するシステムを構築していた。とくにオフコンの受託開発を中心にビジネスを伸ばしてきた。
また、製造業向けのシステム開発で得たノウハウを生かし、部品物流の受発注システムをパッケージ製品として開発。トヨタ自動車の下請けグループの約半数の企業に導入するというヒット商品になっている。
その後はオープン化への変遷を経て、クラウドを取り扱うようになる。転機となったのは2011年、社長の交代である。二代目に就任した清川高史代表取締役社長は、クラウドに取り組むきっかけについて、次のように語る。「リーマン・ショック以降、初期投資を抑えることができるクラウドへのシフトが鮮明になってきた。クラウドでビジネスが変わるなら、当社としても取り組むべきだと判断した」。
最初に取り組んだのは、セールスフォースドットコムのクラウドサービス「Force.com」。クラウド上でシステムを開発して納品するというスタイルに最適との判断だった。「要件をしっかり決めて納品するという旧来型のスタイルを持ち込みやすいクラウドサービスだった。また、事業の成長によって要件が変わるようなケースで使われるアジャイル開発にも対応しやすい。どちらもできるのが、魅力だった」と清川社長は当時の判断について語る。
以降は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、IBM Bluemix、Nifty Cloudなどにも対応できる体制を整えている。
クラウドを難しく考えない
さまざまクラウドを取り扱うには、相応の体制が必要となる。扱い方法を習得するのも簡単ではない。クラウドインテグレータでも、一社のクラウドサービスに注力するケースが多い。ではなぜ、セントラルソフトサービスでは複数社のクラウドサービスを取り扱うことができるのか。
「難しく考える必要はない。まずは、やってみる。やってみればわかる。わからない部分はコミュニティに聞けばいいし、先駆者に教えてもらうこともできる。公開されているソースコードも利用できる。もちろん、クラウドサービスのすべてを理解するのは大変だが、SIerが知っておくべき部分はだいたい決まっている。そこをしっかり把握しておけばいい」と、清川社長はクラウドサービスとのつき合い方をアドバイスする。
クラウドに対応したことで、セントラルソフトサービスでは地場の企業を中心に元請けの案件を獲得することが多くなった。同社が本社を置く岡崎市とその周辺の地域には、海外に拠点をもつグローバル企業が多いのも、クラウドサービスがフィットした。
「日本のSIerは、多重下請け構造のなかで、大手SIerから案件を獲得しているケースが多い。その役割は重要だが、リーマン・ショックや東日本大震災のときは、大手SIerが内製化を進めた。当社は大きな影響を受けなかったが、厳しい状況に陥ったSIerは多かったはず。もし、脱下請けを目指すなら、クラウドは手っ取り早いツールとなる」と清川社長。そこで、「クラウド・IT ビジネスメッセ in 名古屋」を仕掛けるなど、クラウドを東海地区に広めるための活動にも注力している。最近では、「クラウドって何」と聞くユーザーはいなくなったと、浸透ぶりを実感している。
最近は、IoTやAIにも取り組んでいるという。清川社長は「ユーザーからAIについて聞かれたら、答えられる準備はしておきたい。地元に技術を還元するのが、当社のミッションである」と語り、地域密着型で社会に貢献することを目指している。