IBMのビジネスパートナーとして長年実績を積んできた福岡情報ビジネスセンターは、近年、クラウドビジネスへのドラスティックな転換に踏み切った。武藤元美代表取締役は、「今年はその先行投資が実るタイミングだ」と手応えを感じている様子だが、同時に、国内のSI業界全体の行く末について大きな危機意識をもっているという。(取材・文/本多和幸)
先行投資でクラウドシフトに全力
武藤元美
代表取締役
「アジャイル開発とDevOpsを正しく普及させなければ、ユーザーのビジネスのスピードにITベンダー側がついていけなくなる。それは、日本の産業全体の競争力を下げることにつながる」。武藤代表取締役は、自らの問題意識をそう説明する。金融機関の勘定系システムや交通系のシステムなど、「社会性のあるシステム」はウォーターフォール型のシステム構築が必要だが、一般企業のビジネスプラットフォームとしてのITソリューションについては、もはやウォーターフォール型開発のスピード感では対応できないケースが多数派になると予測する。
武藤代表取締役は、「クラウドファーストのトレンドとAPIエコノミーが浸透し、ITの力をフル活用して新しいビジネスを短期間でローンチ、検証し、継続的にブラッシュアップしていく環境が整ってきた」ことが、こうした状況を導いたとみている。同社自身、そうした状況の変化を見据え、「IBM Blumix」のIaaS/PaaS、そして「IBM Watson」の活用に向けた技術者育成を早い段階で進めてきた。この先行投資で得た資産を生かし、実際に、販売管理、製造・生産管理、物流、Eコマース、マーケットプレイスなどの領域で、アジャイル開発の手法を取り入れている。3か月~4か月の納期でクラウド上にシステムを構築し、DevOpsを実践してユーザーのビジネスにおけるシステムの価値を高める取り組みを進めている事例は順調に増えているという。今年から来年にかけては、投資を回収し、ストックビジネスで利益を積み上げるフェーズに入る手応えがある。
ソフトバンクの開発案件が契機
武藤代表取締役は、自らが考える“正しい”アジャイル開発やDevOpsについて次のように説明する。「アジャイル開発は、ユーザーにプロダクトオーナーシップを取り戻させるのが本質。そのうえで、ITベンダーを含む関係者がスクラムを組んで、ビジネスのスピードに追いつくようにスプリント(任意の期間で計画・実行する開発の単位)を回していく。そして、そのスクラムを組んだチームが一体となってシステムの改善、価値向上に継続的に取り組んでいくのがDevOps。ユーザーのビジネスは常に動いているので、ベンダーももっとユーザーのビジネスを勉強して一緒に動かないといけないし、ユーザーもベンダーに丸投げで成果物を求めるのではなく、ITリテラシーを上げて、ベンダーをパートナーと位置づけて、一緒にビジネスをやっていこうという意識に変わらないといけない」。
アジャイル開発、DevOpsは失敗事例も多いが、「ユーザー不在の単なる請け負い開発にアジャイルやDevOpsをあてはめようとしているケースがほとんどで、失敗するのがあたりまえ」だと指摘する。リーダーシップを取るべきはユーザーの業務部門であり、「ベンダー側は、精度は60%でいいので、ビジネスのスピードに遅れないように開発を進めるべきで、システムはあくまでもビジネスのサポートにすぎず、本来、完成という概念はない」というのが、武藤代表取締役の主張だ。
福岡情報ビジネスセンターがこうしたビジネスモデルにたどり着いたのは、ソフトバンクのある業務システム開発で同社エンジニアがPMを務めた経験が大きく影響しているという。武藤代表取締役は、こう振り返る。「驚いたことに、ソフトバンクの業務システム開発は、3か月単位でスプリントを回して、どんどん新しいものをつくっていこうという考え方だった。当社のPMが、例外がこんなにあるのでそれは無理ですよとソフトバンク側に伝えると、例外をシステム化するくらいなら、電卓100個とパート100人を手配したほうが早いといわれて、目から鱗が落ちた。それまでわれわれは、IT業界の宮大工として、例外処理を巧みにつくり上げることにプライドをもってきた。しかし、ITはあくまでもビジネスの道具であり、システム開発がビジネスのスピードの足かせになってはいけないと痛感した。そして、そのためにはアジャイル開発とDevOpsこそが解になると思った」。
武藤代表取締役は、昨年まで6年間にわたってUOS(ユーオス・グループ)理事長を務めたが、昨年は、IBMが主催する九州の地域イノベーション創出を推進する産学官連携プログラム「イノベート・ハブ九州」の立ち上げで中心的な役割を果たし、ハッカソンイベントを開催したり、UOS理事長として「DevOps推進協議会」の発起人にも名を連ねた。自社の営業活動にとどまらず、日本企業の競争力向上のきっかけとなることを目指し、アジャイル開発、DevOpsの普及に向けた活動を、今後も積極的に行っていく意向だという。