経営環境の不確実性の高まりやビジネス・スピードの加速に、ITも対応できなくてはならない。こんな時代に対応できるエンジニアをどのように育てていけばいいのか。
一つは、「勉強する技術」を育てることである。好奇心をもち、勉強し続けるための術を身につけさせる。ただ、そのための定まった教科書はない。だから自らがコミュニティに参加し積極的に貢献することで、学習できなくてはならない。OSSやクラウド・サービスの普及により、エンジニアの学習コストは低下しているので、例え自己負担であっても意欲があれば決して難しいことではない。
ただ、会社が極限まで稼働率を上げることを追求していては、意欲も余裕も生まれない。彼らが自発的に学ぶことを奨励し機会を与えることだ。そういう取り組みが優秀な人材を育てビジネスを支えてくれるようになる。成長の機会は大きな喜びであり、機会を与えてくれる企業への定着率も自ずと高まってゆく。
二つめは、原理原則を学ばせることである。特定の技術に習熟することを求めず、原理原則を理解させる。特定の技術には流行廃りがあるし、すべての技術に習熟することは不可能だ。しかし、原理原則を知っていれば、新技術を習熟する時間は短縮され、必要とあればすぐに実践で生かすことができる技術の目利きもできるようになる。
三つめは、心理学やマーケティングなど幅広い分野を学ばせること。ITビジネスがサービスへシフトするなか、ユーザーがそのサービスをどのように受け止め、どういう行動をとるかをわかったうえで技術的な実装を行う需要が、今後増えてくるからだ。さらに、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉や説得といった顧客応対のスキルも必要。それは技術とビジネスをつなぐ役割をエンジニア自らが担わなくてはならないからだ。
また、アジャイル開発やDevOpsといったスキルも大切。そのためには、「彼らにやらせてみる」しかない。過去のやり方しか知らず、その成功体験のバイアスを持ち続けている管理者が、まずは余計な口出しは控えて新しい取り組みをさせてみる勇気をもつことだ。
そんなエンジニアの「創造的破壊」を推し進めることこそが管理者の使命。エンジニアの働き方改革はこんな取り組みと一体に進めるべきだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。