アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだたつひろ)
1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
スピードが遅く、融通が利かない仕事ぶりをお役所仕事というが、並の民間企業以上の仕事をしている役所がある。北九州市上下水道局海外事業部の仕事ぶりである。
同部は、全国の水道局に先駆けて海外での水ビジネスを手がけてきている。驚くのがその豊富な実績である。今まで受注した事業案件がアジアを中心に51件、現在手がけている事業は数十億円の規模である。
とくに、カンボジアにおける水ビジネスの案件は26件となり、同国の水道の支援は同部がほとんど担っているといっても過言ではない。成果も十分に叩き出している。
首都プノンペンの水道の水は、日本と同じように直接飲める。漏水率に至っては、北九州市よりもカンボジアの水道の施設や水道菅のほうが新しいこともあり、指導した本家よりも低くなっている。
北九州市のカンボジアへの支援の歴史は、1990年代に当時の厚生省から全国の水道局に、長い内戦を終え復興に向かいつつあるカンボジアの水道事業の支援をしてもらえないかという依頼がなされたことに始まる。しかし、25年前のカンボジアである。どこの自治体も手をあげない。そんななかで手をあげたのが北九州市の森一政元水道局長である。当時、現地に派遣された職員は大変だったようだが、支援は長年にかけて継続されてきた。
コスト意識も徹底している。同部の海外出張は原則一人である。民間企業でも一人の海外出張は少ない。役所だと三人、四人は普通である。あたりまえの話だが、二人では費用が倍かかる。また、水道局のOB人材、カンボジアの現地人材を幅広く活用し、なるべくコストを安く事業を進めている。そこで指導、育成したカンボジアの現地人材が、今度は地方の水道局の指導に回ることにより、プノンペンから全国へと技術が広がっていく。
水道水の需要予測、設備整備の投資、水道料金の設定をこの思考法で行うから、現地のニーズに合ってくる。彼らは日本の高いレベルの水道技術を安く買いたいのである。日本の多くの水道局は、理屈ではわかっていても、毎月5千円の水道料金を貰うことを前提に事業を考えているような気がする。北九州市上下水道局は、限りなく工夫をして水道料金を安くする努力を積み重ねている。役所なのにお役所仕事でないところに“すごさ”がある。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。