「究極的には、人を育てるのがSIerのよいあり方だ」と話すのは、アジルコアの濵勝巳取締役である。SIerの組織としてのチームプレーによって、より挑戦的な仕事ができるし、難易度が高ければ高いほど人材育成にも役立つ。育てた人材が独立した後でも、「米映画『アベンジャーズ』のように、プロジェクトによって臨機応変に“再結集”できる人脈もSIerのよき戦力になる」と考えている。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 アジルコア
所在地 東京都渋谷区
資本金 1500万円
設立 1997年4月
社員数 約80人
事業概要 アジルコアは、2010年に長野県のジェイシーと事業統合、その後、12年にアッズーリのSI事業を統合するなどして業容を拡大している。現在、ITコンサルを手がけるアッズーリの創業者で代表取締役の濵勝巳氏は、アジルコアの取締役を兼務する。
URL:http://www.agilecore.co.jp/
SIerは技術や
業種ノウハウの継承基盤
濱 勝巳
取締役
ユーザー企業の売り上げや利益を伸ばすタイプの情報システムを構築するには、ユーザーのやりたいことを聞き込んで、ユーザーと二人三脚になって開発するスタイルが適している。ユーザーの属する業種・業態に深く入り込めば、より実態に即したソフトウェアを実装しやすいからだ。求められる人材像は、ITに詳しく、かつ業種や業態のノウハウにも精通している人。こうしたタイプの人材を育てるには、「技術やノウハウを継承できるSIerの組織が欠かせない」というのが、濱取締役の持論である。
だが、実のところ濱取締役自身、駆け出しの頃は、ユーザーのビジネスに深く入り込むといったスタイルではなかったという。当時、基盤構築に強いITアーキテクトとして、どの会社にも属さず、フリーランスで仕事をとっていた。ユーザー企業や同業者などから回ってくる仕事をこなしていくうちに、「似たような依頼が多い」ことに気づく。そこで、類似する部分の開発を共通化し、生産性や品質を大幅に高めて、納期を早めることで、より多くの仕事をとれるようになった。
だが、ある日、どれだけ仕事を増やしても「単価はほとんど変わらない」ことがわかった。開発の請け負い仕事はこれからも続くが、単価は上がらない。みんなが自分と同じように生産性を高めれば、下手をすれば単価が下がりかねない。そう考えた濱取締役は、1999年にSIerのアッズーリを立ち上げ、ユーザーのビジネスに深く踏み込んでいく方向へ舵を切る。2012年には創業以来の協業関係にあったアジルコアとSI事業を統合し、同社取締役に就いている。
“一品モノのSI”に
SIerの真価がある
今、仕事を発注する立場になってわかったことがある。かつての濱取締役のようなフリーランス(個人)に仕事を出すとき、その人が「できること」の範囲内で仕事を依頼する傾向がある。だから、似たような仕事が集まってくるし、仕事のレベルが均質的であるため、新しいことに挑戦する機会が減り、それだけ成長する機会も減るという構図だ。同じように「いつも似たような仕事しか請けないSIerも人は育たない」とも。
だからこそ、プロジェクトメンバーの強みを生かし、弱みを補完し合いながら、新しいことに果敢にチャレンジする。難易度が高くても、ユーザーと二人三脚で新規事業を立ち上げる。その事業が成功すれば、次のIT投資へとつながり、自ずと報酬も増える好循環が築ける。
似たようなプログラムを開発するだけならパッケージソフトベンダーもできる。そうではなく、プロジェクトチームを組んで、「その顧客のビジネスを伸ばすだめだけに特化した“一品モノのSI”こそ、SIerの真価が試される」と指摘している。
もちろん、さまざまな理由で顧客とともに挑戦した新規事業が軌道に乗らないこともある。そうしたリスクを負ってでも一品モノのSIを通じて、顧客のビジネス創出に挑めるのは、やはりSIerの企業体力であったり、チームプレーであったりの“組織力”が存在する。うまくいかずに「客先で叱られている先輩の背中をみて、後輩は育つ」と濱取締役が話すように、技術だけでなく、ユーザーが属する業種・業態のノウハウの継承も行いやすい。
濱取締役は、フリーランスでは何もできないと言っているわけではない。むしろ「40歳を過ぎたら即戦力として独立しても構わない」と話す。顧客企業との経験をしっかり積めば、プロジェクトの即戦力型の遊軍エンジニアとして、企業に縛られずに働く選択もよい。こうした「優秀な人材と人脈をつくりあげたSIerが競争を有利に勝ち進める」と話す。