アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
日本の医療の輸出産業化第1号である北原国際病院(東京都八王子市)が開院したプノンペンの「サンライズジャパンホスピタル」で想定外のことがある。現地では対応できない脳神経外科、脳血管内治療などの高度医療が中心と想定して進出したが、1日約100人の外来患者のうち、半分は風邪や下痢などの普通の患者なのだ。
ここで威力を発揮しているのが、日本の大手エレクトロニクスメーカーと共同で開発を進めている問診システムである。これが極めて親切、ていねいなのだ。患者によっては20分位かけているケースもある。結果はタブレット端末に入力する。治療行為を最初からIT化している。もちろん、クメール語で問診した情報は、日本語、英語の電子カルテにも翻訳され、共有されている。
風邪や下痢などの普通の患者は、多くが同じ症状を何度も繰り返している。その患者の属性によるものもあれば、その時期に流行しているものもある。これらの治療はITを活用するほうが効果的である。
どうも日本は医師を重んずる傾向が強い。だから3時間待って3分間治療が起こる。医師に過度に診療行為を集中させるため、一人の診療時間が短かくなる。風邪や下痢などは、多少AIや看護師の力を借り、脳神経外科、脳血管内治療などの高度医療は専門的な医師の力を全面的に入れる。そのためには問診に十分時間をかけて、一般的な病気と高度医療を選別しなければならない。サンライズジャパンホスピタルは、極めて合理的な診察をしているのである。
これが日本では可能か、とうかがうとなかなか難しいという。まず、治療行為は医師がやらなければならないという固定観念が強い。それに、タブレット端末を活用した合理的な診察は制度(経費)面でも、心理面でも受け入れにくいという。
北原国際病院の掲げる病院の原点、治療の原点を追求しようとする姿勢に戻ると、患者のニーズをきちんと受け止める必要がある。風邪や下痢などの一般的な病気では、患者の多くは別に医師に診察してほしいわけではない。早く治ればいいのである。病院にいる時間は短かいほどいいのである。医者と話し、じっくり診てもらいたいのは脳神経外科などの高度医療なのである。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。