事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
先日、PwC Japanがエクスペリエンスセンターをオープンした。デジタルエクスペリエンスを体験するリアルの場所として、クライアントとのセッションやプロジェクトを行う場所である。国内の同様の施設のなかでは、ずばぬけてクールだ。SIベンダーや戦略ファームが、横並びでイノベーションという歯の浮いた言葉のもとにかっこいい展示場をつくったのとは明らかに違う。そこはまるでレコーディングスタジオであり、ライブステージのようだ。ワクワクする空間は久しぶりである。
オープニングアクトとして、4人目のYMO松武秀樹氏の演奏に合わせたVRコンテンツを制作させていただいた。なぜ松武氏がオープニングを務めるのか、センター長のエリック松永氏はデジタルがイノベーションを起こすにはグルーヴが必要だと語った。松武氏の奏でるアナログシンセサイザーは波形を一つひとつ積み重ねながらつくられていく。まさに知の連鎖だ。私たちが制作したVRコンテンツはここにグルーヴを加えるものでなくてはならない。そこで松武氏に楽曲をバラバラにして波形データでいただき、その波形をVR空間に配置し、音に合わせて言葉を置いていくという膨大な作業によってつくり出される新しい体験を演出した。電子音楽だからMIDIデータでシンクロすれば簡単に同期ができるのだが、人が織りなすグルーヴはデジタル処理では表現できない。
なぜイノベーションがうまく進まないのか? デジタルエクスペリエンスと呼ばれるブラックボックスに過度な期待をしすぎていることも大きな要因だ。イノベーションを起こす作業は地道で繊細なものだ。一つひとつ知見をくみ上げるごとに調和を調整し、それらがグルーヴを生むように場のコントロールが必要なのだ。まさにジャムセッションのように参加者があうんの呼吸でつながる必要がある。
デジタルとテクノロジーは、同じ意味で使われる場合が多いがまったく違う。テクノロジーの活用はイノベーションを起こす重要な要素であるが、デジタルはテクノロジーにグルーヴを与えるための単なるツールでしかない。グルーヴとは人が織りなすことによりつくりだす「乗り」である。定義さえも曖昧なこの「乗り」を出すためにはデジタル処理だけでは無理だ。人間の感性である曖昧さを加味したスパイスが、イノベーションには必要なのだ。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。