一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
略歴
久保田 裕(くぼた ゆたか)

1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
将来教員を目指す学生や教育機関で指導を行っている現職の教員に向けて、「教育著作権検定」試験が2月から始まる。著作権教育の必要性は理解しつつも、知識がないためにどう教えたらいいのか困惑している教育現場に向けて、著作権に関する不安の解消と教育活動における著作物の適正な利活用の促進を図るために実施するものだ。かねてから主張してきた著作権教育を一歩でも進めるために、重要な役割を果たしてくれると期待している。
昨年末には、長野県の松本大学で授業を行った。元新聞記者である江成康明先生の「地球環境と民度」という講義において、一昨年と昨年に続き「情報社会と著作権制度」といったテーマを中心に情報モラルの話をした。
学生たちは9チームに分かれ、情報モラル10箇条を作成している。松本大学での授業は今年で5年目。毎年、異なる学生たちと接しているが、議論の土台が熟成されてきたからか、全体的にブラッシュアップされてセンスのいいものになりそうだ。今年は、学生たちと同年代の人たちが被害にあった座間の事件を受けて、SNSでの情報発信についての議論が深まっているように感じている。
それに先立ち、東京情報大学でも著作権と情報モラルに関する授業を行った。授業を受けた彼らの感想文からは、彼らが、小学生や中学生時代に触れていたパソコンでいわゆる「マジコン」や不正ツールを知り、人によっては利用もし、近年の著作権改正による違法ダウンロードの刑事罰化に怯えたり反発を覚えながらも、自分なりに著作権の意味を考えてきた世代だということがわかった。また、ネットの利用ツールがパソコンからスマートフォンに移行したことで、情報社会におけるクリエイティブな活動が停滞するのではないかと心配している学生もいた。
大学でこうした授業を受け、情報社会や著作権への問題意識をもった学生が、数年でBCN読者の企業に就職してくる。だとすれば著作権や情報モラルについて、意識づけが必要なのは、むしろすでに働いている人たちかもしれない。
松本大学で行われている情報モラル10箇条をつくるためのグループディスカッションは、企業での意識づけにも有効だろう。企業のコンプライアンスを考えるなら、こうした活動で意識の向上を考えられてはどうだろうか。