内閣府が主催する総合科学技術会議「イノベーション会議」は、Society 5.0に向けた省庁及び分野横断システムの実現に向けた重要課題や戦略的施策を議論する「Society5.0重要課題ワーキンググループ」を設置。さらに、「データ連携基盤サブワーキンググループ」を設けた。
メンバーの一人として事務局資料に関し、一番に修正すべきと思ったのは、システム構成図が階層構造で産業分野別のプラットフォームの存在が前提となっているところ。産業分野ごとのプラットフォームは、その産業のビッグプレーヤの既得権益を守る方向になりがちである。創造的な分野間連携を目指すような元気なプレーヤにとっては、むしろ足枷・障害となることが心配される。複数の委員から賛同の意見をいただくことができ、「データと通信の標準化」よりも「データへのアクセス・利用を推進し、データ変換が行われていてもいいので、産業間連携による成功事例を推奨する」 というコンセンサスを得ることができた。
また、事務局資料のなかの「国際標準の獲得」に関する修正を提案した。国際標準の獲得は、標準技術の普及のためにあるが、国が主導する事業においては、国際標準の獲得が目的になってしまう場合が少なくない。いくつかの施策では、国際標準化という目的を推進するために補助金というツールを導入している。補助金は、税金→ベンダーというお金の流れであり、民間をスポイルしてしまうような危険性がある。普及が目的ではなく、補助金が目的になってしまい、大失敗した施策は少なからず存在するのではないだろうか。
「産業間及び産業内でのデータ連携」の目的は、イノベーションの創成である。「データ連携」が目的なのではない。また、「データ連携基盤構築」は手段であり、目的ではない。「データ連携のための技術仕様の標準化」を手段として使うことは理想的だが、それよりも第一に必要かつ大事なことがある。それは、「データ連携を可能にするシステムの構築と運用」による「新しいイノベーションの創成」の実例と、その有効性を示すということ。類似のケースは、民間企業においても見受けられるのではないだろうか。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
江崎 浩(えさき ひろし)

1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。1998年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。