韓国のエンジニアが日本での就労を望んでいる。韓国内では就職難の状況にあり、それが隣国である日本を目指す動機の一つとなっているという。韓国IT企業は実績を重視するため、とくにエンジニアとして実績のない学生が置かれている状況は非常に厳しい。一方で、日本では開発案件が過多の状態で、エンジニア不足が続いている。こうした状況を考慮し、日本情報技術取引所(JIET)は、ソウル支部を2017年11月に設立。韓国のエンジニアと日本のITベンダーとの橋渡し役を担っている。(取材・文/畔上文昭)
韓国は1人月150万円以上
韓国には、ソフトウェア関連だけで約2万社のIT企業が存在する。特徴的なのは、そのほとんどが自社開発のパッケージ製品やサービスをもっているところにある。その理由について、JIETソウル支部の野口善時支部長は、次のように語る。
ソウル支部
野口善時
支部長
「韓国では、政府がシステム開発の人月単価を約150万円以上とすることを要望している。国を挙げてIT産業を支援しているためだが、多くのユーザー企業にとって、1人月150万円で発注するのは難しい。パッケージを採用したほうが、投資を抑えることができる」。韓国のIT企業が自社開発のパッケージ製品やサービスをもっているのは、こうした事情があるからだ。
IT企業としても、受託開発を請け負うには1人月150万円に見合うエンジニアを確保する必要があるため、実績のない学生を採用しにくい状況となっている。韓国の学生が海外を目指すのは、こうした事情があるためだ。多くの学生が、ITスキルとともに外国語を学ぶという。日本語も、その一つである。
韓国が就職難となっている一方で、日本国内はシステム開発案件が過多の状態にあり、エンジニア不足が続いている。エンジニアをいかに確保するかは、SIerにとって重要な経営課題だ。とはいえ、日本のSIerの多くは、韓国の学生を採用するパイプをもっていない。JIETのソウル支部は、その橋渡し役を担うことを目指している。
韓国で人材採用フェアを定期開催
ソウル支部の設立は17年11月で、設立準備室は同年2月にスタートさせ、毎月1回のペースで韓国のIT企業との情報交換を進めてきた。また、プレ商談会を、4月に名古屋、6月にソウル、7月に再度名古屋、8月に東京で実施。そして、支部設立後の12月には、ソウルにおいて、韓国貿易協会と共同で人材採用フェアを開催した。日本からはSIerが10社参加し、20人の採用が決まった。人材採用フェアは、今後もソウル支部の主要な活動になっていく予定だ。
昨年12月に開催した人材採用フェア。20人の採用が決まった
「今年も12月にソウルで人材採用フェアの開催を予定している。昨年の参加企業は10社だったが、今年は50社が参加できるような規模を想定している。JIETの会員以外でも、フェアに参加するための旅費を支援するので、積極的に参加してほしい」と、野口支部長は多くの企業が参加することを望んでいる。
今年の人材採用フェアでは、商談会の同時開催も予定しているという。とはいえ、韓国ではエンジニアの人件費が高いため、日本の案件を韓国のIT企業に紹介するのは難しい。「ソウル支部としては、商談会で韓国のパッケージ製品やサービスを会員に紹介することに取り組んでいる。そのため、ソウル支部は、JIETの海外支部のなかで現地企業の会員数が最も多い」と、野口支部長はソウル支部における商談会について説明する。ソウル支部は、韓国のソフトウェア産業協会と連携して、国内でも商談会を開催することを予定している。
発足して間もないソウル支部だが、すでに6社の韓国企業が入会。前述のとおり、韓国のIT企業は自社開発のパッケージ製品やサービスをもっていて、その多くが海外展開を望んでいる。そのため、ソウル支部は年内には20社、3年以内に50社へと会員数を増やしていくことを計画している。