ユーザー企業が新規事業を立ち上げるときに大切なのは、事業を支えるシステムを「安くつくることだ」と、チャーリー・ソフトウェアの玉村元社長は考えている。新規事業が成功する確率は決して高くない。あらかじめシステム開発にかかる費用を抑えておけば、それだけ予算内での試行錯誤の回数を増やせるし、失敗のリスクも軽減できる。「小さく始めて大きく育てる」手法を探求していくうちに、「新規事業の立ち上げに強いSIer」としてユーザー企業から認知されるようになった。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 チャーリー・ソフトウェア
所在地 東京都中央区
設立 1990年5月2日
資本金 1960万円
従業員数 10人
事業概要 ウェブアプリケーションの開発を強みとしている。とりわけ新規事業を立ち上げようとするユーザー企業と一緒になって試行錯誤を繰り返し、事業の成功確率を高めていく手法に定評がある。日本情報サービスイノベーションパートナー協会(JASIPA)会員企業
URL:http://www.charlie-s.jp/
OSSの積極採用で
開発工数を5分の1に
玉村 元
社長
チャーリー・ソフトウェアが起業したのは、LinuxやWindowsサーバーなどの安価なOSがまだ普及する以前の1990年。当時はUNIXをベースに業務システムを構築することが多かった。インターネットが普及し始めた90年代後半には、さまざまなユーザー企業がネットを使った新規事業を立ち上げ始めた。UNIXではどうしても開発コストがかさみ、新規事業にはそぐわなかった。そこで、業界に先駆けてマイクロソフトが最新アーキテクチャで開発したWindows NTを採用。間髪を入れずにオープンソースソフト(OSS)のLinux OSでの開発もスタートした。
結果は、UNIXからWindows NT、Linux OSと順に変えていくのに従って、「開発コストが下がった」(玉村元社長)と振り返る。Windows NTは高価なUNIXより安価であり、Linuxに至ってはOSSであるため基本的に無料で利用できるからだ。最初のプロジェクトは、あるメディア企業が立ち上げたテレビの電子番組表(EPG)のシステム開発。90年代後半の一時期、多くの企業がEPG事業へ参入したが、すぐに淘汰が始まった。結果的にチャーリー・ソフトウェアが開発を請け負ったEPG事業は淘汰の波を乗り切れなかったが、Linuxをベースに開発コストを抑えたため損失も最小限に抑えることができた。
このEPG開発プロジェクトの経験は、その後のチャーリー・ソフトウェアの方向性を決めることになる。「ネットを使った新規事業の立ち上げに必要なウェブアプリケーションを安くつくってくれる」との評判が広がり、別のメディア企業からもウェブアプリの注文が次々と入るようになった。2000年代に入ると、Linuxをベースとした開発のみならず、プログラミング言語Python(パイソン)でつくられたOSSのウェブアプリケーションフレームワーク「Zope(ゾープ)」の活用も始める。フレームワークを使うことにより、開発工数を5分の1に削減することができた。
ユーザー企業と
試行錯誤を繰り返す
業績も順調に拡大してくなか、「自分たちでもオリジナルのアプリをつくれないものか」(玉村社長)と野心が出てきた。そこで複数の企業内ソーシャルメディア(SNS)を連携して使う分散協調型SNSを独自に開発。コラボレーションツールとして売り出したものの、残念ながら思ったようには売れなかった。
受託ソフト開発が長い同社にとって、自社ソフトを販売するノウハウが十分でなかったり、販路の開拓がうまくいかなかったのが主な理由。顧客に向けては開発コストの削減の強みを発揮してきたが、いざ自社でソフト製品を開発するにあたっては、多額の開発投資をしてしまったのもマイナスに働いた。「新規事業を立ち上げるときは、小さく始めて大きく育てることがいかに大切か身をもって学んだ」と話す。
客先常駐でのソフト開発は依然として引き合いが強いが、近年では、「IT投資をすることで、どれだけの売り上げや利益を出せるのか提案してほしい」とユーザー企業に求められることが増えた。価値の中心が「ソフトウェアをつくる」ことから、「売り上げや利益をソフトウェアでどう伸ばすか」に移っている。
幸いなことに、AI(人工知能)やIoTの機能はさまざまなベンダーがクラウド上で提供している。これら機能をAPIで客先のシステムと連携させることで機能を拡張。機能性に富んだソフトを安くつくれば、予算に余裕も生まれやすくなり、それだけ試行錯誤の回数も増やせる。こうしてチャーリー・ソフトウェアは、ユーザーと試行錯誤を繰り返しながら、ユーザーの新規事業のマーケットにおける競争力を高めている。結果として、ユーザーのビジネスの成功確率を高めることにつながっている。