「うちもIoT/AIで何かできないか?」という社長の言葉に翻弄されている現場の話を聞く。社長はIoT/AIで何かはじめないと、取り残されてしまい、競争力を失ってしまうと懸念しているのだろう。
しかし、「手段を使うこと」を目的としてしまった取り組みが、ビジネスの成果に結びつくことはまれだ。成果がでない取り組みが長続きすることはない。また、改善を重ねようという意欲も生みださない。なぜなら「手段を使う」ことが目的なので、「使った」という事実が成果として残れば目的を達したことになるからだ。機能検証みたいなことが目的となっているともいえる。PoC(Proof of Concept : 概念検証)と呼ばれる取り組みが、実際のビジネスに結びつかないのは、新しいビジネスの概念を検証することではなく、テクノロジーの機能検証に終わっているからだろう。そうなると、このテクノロジーは使えないという結論に達し、それ以上の動きが止まってしまう。
本来、テクノロジーの価値は、「この課題をブレークスルーできれば劇的な改善や圧倒的な競争力を得られるはずだ」といった現場の切実な実感と明確な意志が前提になければ引き出せない。
できなかったことをできるようにする魔法がテクノロジーである。テクノロジーの進化をみれば、まさにそんな夢がどんどんと実現している。解決したい、実現したい、ならばどうすればいいのだろうかを考え、ビジネスプロセスや組織体制を変えたり、マーケティングや広告宣伝の方法を工夫すると同様に新しいテクノロジーの採用を考えることが大切だ。テクノロジーが、その手段として効果的であるとすれば使えばいい。
未来科学者のロイ・アマラの「われわれはテクノロジーの影響を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向がある」という“アマラの法則”を忘れてはいけない。ビジネスの成果のあるなしで、テクノロジーの価値を評価する。そうすれば、そのテクノロジーが使えるかどうか、改良の余地があるか、むしろこちらを使った方がいいのではないかといった、合理的な判断につながる。
「うちもIoT/AIで何かできないか?」という言葉に踊らされてはいけない。正しい出発点から始めて、正しい手順を踏んでこそ、テクノロジーは魔法の力を発揮する。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴
斎藤 昌義(さいとう まさのり)

1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。