次世代の組み込みソフト開発ビジネスとは、デバイスとクラウド、サービスを一体的に捉えて、「顧客が抱える課題や、やりたいことを総合的に支援していくことだ」と、ユビキタスの佐野勝大代表取締役社長は考えている。IoTはまさにデバイスとクラウドを融合させたサービス形態だ。近年では、IoTを活用して新しいビジネスを創出しようとする顧客企業が増えている。デバイスとクラウド、サービスの間にある“ギャップ”を埋めて、顧客の新ビジネスをワンストップで支援できるよう、事業ポートフォリオの増強に力を入れている。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 ユビキタス
所在地 東京都新宿区
設立 2001年5月7日
資本金 14億7098万円
社員数 130人(グループ連結)
事業概要 組み込みソフト開発を主力とするユビキタスは、2017年4月にグループに迎え入れた組み込み関連製品の技術商社であるエーアイコーポレーションと合併。今年7月1日付で社名を「ユビキタスAIコーポレーション」へと変える予定だ。国内外のさまざまな組み込み関連ソフトやツールを駆使した高効率な開発手法を一段と強化する。ユビキタスは組込みシステム技術協会(JASA)の会員企業で、佐野勝大社長は同協会の副会長/協業推進委員長を務めるなど、組み込みソフト業界の発展にも尽力している。
URL:https://www.ubiquitous.co.jp/
IoTビジネスをワンストップで支援
佐野勝大
社長
製品の「開発費」の範囲でビジネスをしていては、組み込みソフト開発の伸びしろは限られてしまう。「これが従来の組み込みソフト開発ビジネスの大きな課題だった」と、ユビキタスの佐野社長は話す。
日本の携帯電話や情報家電、カーナビが飛ぶように売れた時代なら、デバイスの販売量に合わせて組み込みソフトのライセンス料を顧客であるメーカーからいただくモデルでも十分な収益を得られたが、現状それも厳しい。
そこで、ユビキタスが着目するのがIoT関連ビジネスだ。顧客企業の多くはIoTを駆使した新しいビジネスの創出に意欲的。この新ビジネス創出を「ワンストップで支援できるサービス体系を充実させることが、組み込みソフト開発ベンダーの伸びしろにつながる」(佐野社長)と考える。
例えば、エネルギー管理。どうしたら消費電力をもっと削減でき、どの電力会社と契約したら一番コストが安くなるのかを導き出す。家庭や事業所の電力使用量を詳細に計測するゲートウェイ端末に実装するソフトウェアは、組み込みソフト開発ベンダーの得意領域。だが、端末から得たデータをクラウド側で分析し、顧客が知りたい答えを導き出せる組み込みソフトベンダーは、「周囲を見渡しても意外に少ない」と、組み込みソフト業界が抱える課題を指摘する。
また、組み込みソフト開発においても、開発の自動化、効率化は着実に進行している。組み込みソフト開発で積極的に採り入れられているモデルベース開発は、ある種の開発の自動化である。各種モジュールを組み合わせたり、効率的な開発が可能なツールも盛んに使われている。ゼロベースから開発するスクラッチ開発の割合が今後高まるとは考えにくい。業務ソフトの領域でパッケージやSaaSが使われ、スクラッチ開発の伸びが鈍っているのと状況は似ている。
幅広いビジネスに対応できる
新体制へ
こうした状況を打開するため、ユビキタスはシステム構築やソフト開発に長けたエイムを2016年4月に、海外の組み込みソフト関連ソフトを仕入れ販売する技術商社のエーアイコーポレーションを17年4月に、グループに迎え入れた。
ユビキタスは、もともと研究開発型の企業であるため、大規模なスクラッチ開発は得意としてこなかった。アプリケーション開発やコンテンツ領域まで守備範囲とするエイムをグループに迎え入れることで、デバイスからアプリケーション、コンテンツ領域まで総合的な開発力を手に入れた。
一方、エーアイコーポレーションは、グループ化から約1年だけをみても、新たにイスラエルや米国、ドイツなどの5社、8製品の国内販売をスタート。グループでの取り扱い製品が100種類余りに達するなど品揃えを意欲的に増やしている。直近では、衝突防止センサといった先進運転支援システム(ADAS)用モニタリングソフトや、組み込みシステム向け軽量ファイアウォール、IoTネットワーク向けぜい弱性検出ツールなど多岐にわたる。
組み込みソフト開発ベンダーならではの目利き力で、世界中のすぐれた組み込み関連商材を活用することで、「効率よく、高品質な組み込みシステムをつくることができる」としている。エーアイコーポレーションとの連携は、大きな相乗効果が見込めることから、今年7月1日付で合併し、社名も「ユビキタスAIコーポレーション」へと変更する予定だ。
IoTを巡っては、コネクティッドカーをはじめとするクラウドと連動する車載システムや、再生可能エネルギー(再エネ)を活用したエネルギー管理、さまざまなセンサを駆使して高度化する生産現場など、ビジネスの幅はますます広がる。顧客企業の新ビジネス創出を総合的に支援する事業ポートフォリオを充実させることで、IoT時代をリードする次世代の組み込みソフトビジネスの確立を急ぐ。