全国高校野球選手権、いわゆる夏の甲子園は、100回目の節目の大会にふさわしい盛り上がりをみせ、閉幕した。史上初の二度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭。まさに偉業を成し遂げたわけだが、判官びいきの日本人ならではなのか、外国人にも共感してもらえる価値観なのかはわからないが、主役の座は準優勝の金足農業にもっていかれてしまった。かたや全国から精鋭を集めた高校野球のスーパーエリート集団、かたや甲子園出場経験ありとはいえ部員全員が県内出身者の公立農業高校とあっては、金足農業に肩入れしたくなるのも無理はないか。
一方で、多くの人が高校野球のあり方についてあらためて考えさせられた大会でもあったのではないか。金足農業の快進撃の立役者である好投手・吉田君も、決勝戦では最悪のコンディションで最強の相手に対峙してしまったようにみえた。真夏に2週間弱で6試合、900球近い投球をすることが果たして是とされるべきなのか。もはや高校野球は会場確保の都合や運営にかかるコストなどを考えれば、休養日を設けるなどの措置もそう簡単には取れないのだろうが、大人が設定した過酷な環境で刹那に輝く高校生のプレーを興行化して、「感動をありがとう」と言っているだけでいいのか。球児たち本人の気持ちとしては、例えばプロ野球に進むつもりがなければ体の負担を顧みずに全力で、見方によっては無茶なプレーをするケースもあり得るだろう。しかし、高校野球とはそういうものであるべきなのか。主催者側は真剣に考えるべき時期に来ているし、高校野球ファンの大人も少し思いを巡らせてみてほしい。
ITの視点では、メディアのタイムリーな取り組みも目立った夏の甲子園だった。朝日新聞や神戸新聞が、試合の戦評を報じるAI記者を投入した。このAI記者、いずれも内製したものだ。昨夏まで米スタンフォード大に留学していた情シスのエース級人材が開発を率いたという朝日新聞はともかく、神戸新聞は記者経験者の非プログラマが業務外で休日につくり始めたというから驚きだ。Yahoo!ニュースのオウンドメディアに開発者のインタビュー記事が掲載されていたが、「できる範囲でまずはとにかくやってみた」という姿勢がいい。とかく体質が保守的だと言われがちなオールドメディアも、常に自らを省みて変化に適応していかなければ生き残れない。見習いたい取り組みだ。
週刊BCN 編集長 本多和幸
略歴

本多 和幸(ほんだ かずゆき)
1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、13年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。