1965年春、ゴードン・ムーアはコンピューターの未来についての記事を依頼された。当時、最先端の集積回路でさえ一つのコンピューター・チップに詰め込めるトランジスターの数は、せいぜい30個が限界だった。彼は記事を書くためにデータを集め、なんと一枚のチップに集積されるトランジスターの数は、59年から毎年倍増していることを発見した。この先もこの傾向が続くと仮定すると、75年には6万5000個という途方もない数のトランジスターが集積されることになると発表した。そして現在、その数は数億個になった。後に「ムーアの法則」と言われるようになったこの経験則は、現実のものになった。
技術革新に終わりはない。2007年にiPhoneが登場し、社会やビジネスの常識はわずか10年で様変わりしてしまった。一方、SIビジネスの現場はどうだったのか。
例えば、規制の多い銀行でさえもクラウドへの移行を積極的に進め、昨年、閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進計画」では、「クラウドを最優先で検討する」方針を打ち出している。また、サーバーの仮想化に代わりコンテナが新しい常識となり、マイクロサービスやサーバーレス/FaaS(Function as a Service)が、より大きな顧客価値を生み出すとして受け入れられつつある。しかし、物理マシンを仮想化して、IaaSに引っ越すことで工数を稼ぐようなレベルにもかかわらず、クラウド・インテグレーターを自認するSI事業者は少なくはない。
20年に登場する5G通信が、IP VPNなどの閉域網やLANを不要とするだろう。WANは、クラウド・プロバイダーの持つ高速なネットワークやSD-WANが代替してくれるようになる。そうなると、ネットワーク機器の販売や構築のビジネスは立ちゆかなくなるだろう。その一方で、AIはさまざまなサービスに組み込まれ、量子コンピューターも当たり前に使われるようになっていく。
このような新しい選択肢を含めて、顧客への提案ができないとすれば、それは「不作為の罪」に等しい。未来への道筋がはっきりと見えている以上、SI事業者は新しい技術力を磨き、それをビジネスにしていく必要がある。少なくとも、物販や構築、工数を提供できることが企業価値ではなくなることだけは確かだ。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。