ヘアケア製品の製造・販売を手掛けるビューティーエクスペリエンス。創業40年を契機に社名の変更や新たな理念を設定するなど変革を進めている同社は、2017年からは会社の成長に向けた基盤づくりを目指し、デジタル化を推進している。その結果、経費精算をはじめとする従来の非効率な業務をIT活用によって効率化、作業負荷や残業時間の削減を実現した。
石川 亮
業務システム部
部長
システム部門としての役割を担うとともに、IT活用による業務改善を推進
Profile of This Case
<導入企業>
1975年創業のヘアケアメーカー。ヘアサロン向けヘアケア製品の製造・販売を主力事業として展開している。創業40年周年に当たる2015年、「モルトベーネ」から現社名へ変更した
<課題>
経費申請業務や美容業界の特性上、営業担当者の残業負担が大きかった
<対策>
グループウェアや経費精算システムを刷新。モバイル活用を推進した
<効果>
残業時間の削減に成功し、効率的な働き方を実現した
“アナログ”残る美容業界の変革も推進
営業の勤務時間が長くなりがち
ビューティーエクスペリエンスのデジタル化の取り組みにおいて進めているのがIT活用による社員の働き方改革と、それによる生産性向上だ。美容業界の特性ともいえるが、同社の顧客であるサロンが日中に店舗の営業をしているため、同社の営業担当者は午前中に代理店を訪問、午後に車でサロン巡りをするというのが基本的な活動パターン。「特に都心部は夜遅くまで営業しているサロンも多く、営業終了後に製品の説明などを行っていると、勤務時間が長くなってしまっていた」と、業務システム部の石川亮部長は語る。
また、同社では長年「Notes」をベースとしたシステムで、メールやワークフロー、経費精算などを行っていたのだが、石川部長によると「もともと外で働く人の利用に向いたシステムではなかったため、1週間や2週間に1度は会社に戻って申請作業をしないといけないという負担があった」といい、それが残業につながる要因にもなっていた。スマートフォンやタブレット端末といったモバイルデバイスも導入していたが十分に活用できておらず、そうした面で「改善の余地があった」という。
経費精算システムで残業時間を大幅削減
こうした非効率な働き方を変革するため、ビューティーエクスペリエンスではトップダウンでITシステムを刷新する議論を始めた。Notesの置き換えを前提としつつ、社外で働く社員のために、石川部長の方針で「クラウドとモバイルに対応した新しいサービスを採用する」ことを基準に、新たなシステムの導入を検討。そして採用したのが、マイクロソフトの「Office 365」や、NTTデータイントラマートの「Accel-Mart」、マネーフォワードの「MFクラウド経費」である。
Office 365は、多数の企業で利用されているという豊富な実績が決め手になったが、経費精算システムの選定に当たっては、10種類以上の製品を比較検討したという。その中で、「使い勝手が一番いいものを選んだ。MFクラウド経費はITが不慣れな人でも使える分かりやすい画面で、ユーザビリティーが高かった」ことで、採用を決めたという。
さらに、Accel-Mart上の機能とMFクラウド経費をAPIで連携することで、例外的な処理向けの機能をつくり込み、経理業務の効率化を追求した。こうしたサービス連携で、「従来の申請業務の半分ほどが削減され、ほとんど自分でデータを入力する必要がなくなった」(石川部長)ほど、作業負荷を軽減。中でも「ETCの利用明細も自動連携できるのが、車での移動が多い営業から特に評判がいい」という。また、「従来は紙の台紙に領収書を貼って提出する必要があったが、今ではカメラで撮って申請すればそれで作業は終わる。時間をかけて会社に戻り申請作業を行う必要なく、営業の合間などに経費申請を行えるようになった」と、効果は上々。結果として、営業部門の残業時間を21%削減(18年度実績)することに成功した。
美容業界全体でデジタル化を推進
同社が進めるデジタル化の取り組みには、社員の働き方改革に加え、もう一つの目的があった。それは、“アナログ”な美容業界の働き方を変えることである。
美容業界は紙の利用が中心。サロンによってはメールをほとんど利用していないところもあり、資料などは基本的に紙で用意する。また、販売代理店からの商品の受注書は手書きでファックスで送られることが多かった。「美容業界にはメーカーも代理店も古い会社が多く、ITにあまり慣れ親しんでいない。そうしたアナログな業界の働き方も変えていきたい」という思いがあった。
そして、同社がデジタル化の取り組みを進める中で、代理店にも協力してもらい、受注の電子化を進めた。これにより、代理店側にとっては手で書くという手間を省き、同社側では誤字などの確認作業の手間がなくなった。その結果として、同社受注課の残業時間は77%も削減(18年度実績)することができたという。今後は、サロンも含めたデジタル化のサポートを進めていきたいという考えも持つ。
「新しい経費精算システムを導入したことで、これまであまり見えていなかった営業担当者の活動内容が見えてきた。営業業務について、根本的に変えられる部分があると思う。例えば、サロンや代理店とのやり取りにLINEのようなチャットやウェブ会議を利用することで、社員が現地まで行く頻度を減らしたり、サロンや代理店にも負担が減る形で情報交換したりできるのではないか。今後も特に営業の業務改善に力を入れていきたい」と石川部長は力を込める。(前田幸慧)