先日、韓国未来創造科学部主催の人工知能国際会議で「人工知能振興のための日本政府の取り組み」について話してくれという依頼が、韓国の友人を通じて突然あった。大体そんなテーマは専門ではないし、政府関係委員会の委員でもない。おまけに開催日2週間前の依頼で、一旦、丁重にお断り申し上げたが、米国や中国などの講演者は手配できたものの日本だけ欠けているので主催者が困っていると説得され、わが身の優柔不断さから結局引き受ける羽目になった。
これまで韓国政府関係の国際会議に幾度かかかわってきたが、日本と比べると準備期間がとても短いものが多い。いや、韓国ばかりではない。昔、シンガポールや香港で政府関係者とASP関連の国際会議の企画にかかわった経験から、彼らは日本ほど長い準備期間を設けずに、1~2カ月程度で国際会議の企画から開催へと突き進むことがあった。当時はそのことに驚かされたのだが、社会環境の急激な変化への対応を迫られる今の時代には、思いついたらすぐに実行に移すという彼らのやり方のほうが正しいのではないかと思える。
さて、そのような経緯から、慌ててインターネットで講演ネタに使えそうな統計データや情報を、政府関連サイトを中心に掻き集めた。そこで見えてきたのは、わが国の情報技術産業の危機的な現実である。
OECD統計データを見れば、日本の単位労働時間当たりのGDPも単位労働コストも、OECD加盟国平均を下回る。「日本は情報技術の活用による新産業の創造や雇用の拡大ができていない」と、OECDに指摘されたのは15年も前のことだ。これを裏付けるかのように、一般企業に属するIT人材が占める割合が、米国は3分の2であるのに対して、わが国は3分の1に満たない。また、学術団体国際人工知能会議の論文採択数を見ると、米国や中国がそれぞれ30%前後を占めるのに対し、わが国は4%ほど。量的にも質的にもIT人材の確保で劣っていることは明白である。
2020年には先端IT人材が5万人、一般IT人材が30万人不足するとの見通しが政府委員会資料の中にあったが、なかなか満たし難い数字に思える。大学のIT教育に長年携わってきた経験から言えば、そもそもIT教育側の人材が量的というより質的な問題を抱えているという現実がある。大丈夫か?日本!
一般社団法人 みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。