freeeの代表取締役で創業者でもある佐々木大輔さんが起業した背景を根掘り葉掘り聞いた前号。連載2回目の今回はもう少しこれを掘り下げるとともに、少し真面目に、freeeのビジネスの状況やクラウド業務ソフト市場の現状についても聞いてみた。(取材・文/本多和幸 写真/大星直輝)
本多 freeeを創業されたとき、グーグル時代にSMBのテクノロジー活用の必要性を実感したことのほかに、何か問題意識として持たれていたことってあるんですか?
佐々木 グーグル時代、新機能が出ると日本以外のオフィスでは「おお、スゲー!」って感じになるんですが、日本のオフィスでは、それってこういうリスクがあるんじゃないか、みたいな話になるんですよ。
本多 グーグルですらそんな傾向はありましたか。
佐々木 そうなんですよ。日本の社会が活性化するためには、ちょっと物議を醸しそうなことを勇気をもってやるような事例がもっと増えないといけないし、逆にみんなそういうことをやらないからチャンスも大きいんじゃないかとは考えていましたね。それが30年間変わっていないと言われていた会計ソフト業界で、チャレンジした一つの背景にはなっています。
その意味では、日本はもっと起業する人が増えないとダメだとも思っていたわけですけど、言ってるだけじゃ単なる外野ですから、自分に何ができるかという問題意識もありました。ベンチャーキャピタル(VC)をやるとか選択肢はあると思いますが、僕はグーグルの前に投資ファンドで働いた経験があって、そのときに分かったのは世の中にはお金が余っているということなんです。投資ファンドは投資先を割と大変な思いをして探している。VCも同じだと思います。投資家側にいても、起業家を増やすことに直接つながるわけではないと考えたんですね。
本多 そもそも起業家が増えないと、お金も回っていかない。
佐々木 そう、だから自分が起業するしかないんじゃないかと。
「喜ばれる営業ってあるんだ」
そう感じたのは大きな学びだった
本多 freeeは資金調達額が累計で160億円を超えましたね。社員数も約500人という規模になりました。ビジネスもいろいろな変遷があって、佐々木さんが創業当初に考えていたことと少し違う部分が出てきているんじゃないかと思うんですよ。例えば、当時、佐々木さんは対面営業に頼るような非効率なビジネスは絶対やらないとおっしゃったのをすごく鮮明に覚えていて、過激なこと言うなあと(笑)。ウェブマーケティングとインサイドセールスでやり切るんだとおっしゃっていましたが、現在はそういう体制ではないですよね。
佐々木 確かに今や大きな営業組織があるんですけど、営業組織を持とうと決めたのはすごく大きな決断でしたね。個人事業主向けのビジネスは今でも全てオンラインだし、セルフサービスだし、それでどんどん伸びているんですけど、やはり法人は違ったんですよね。小規模な法人であっても、これは営業しないとダメなんじゃないかと感じたんです。
本多 そのきっかけって何でしたか?
佐々木 個人事業主と比べると法人のユーザーが(無料の試用期間を過ぎてから)課金して使う割合がすごく低かったんですね。なぜなのか理解するために徹底的にヒアリングしてみると、freeeの製品のことが理解できていなかったとか、忙しくて使う体制を整える暇がなかったとか、きっかけがなかったとか、明確に採用しない理由があるというわけではなかった。そこで20~30分デモして、こういうことなんです、と説明すると皆さん驚いて、そんなことできるの、みたいな感じになるんです。こういう風に喜ばれる営業ってあるんだと感じたのは大きな学びだったし、大きな転機でした。キャリア採用でfreeeに入った営業のメンバーには、こんなにお客さんに喜んでもらえることはなかなかない、営業が楽だと言ってもらっています。あとは営業の体制ができて回り始めると、いろいろな仕掛けのスイッチができたり、freeeの組織としてのポテンシャルが上がった感はあります。その過程は面白かったですね。
本多 試行錯誤していく中での必然だったという感じですかね。
佐々木 ただ、営業という機能をつくるときも、新しい効率的なやり方を追求しようとは思っていました。例えば、画面共有だけでデモをするとか。訪問営業だけが全てではないですし、リモートでできることもたくさんありますからね。
本多 足で稼いで、みたいな営業とはやはり違うということですか。
佐々木 はい。freeeはマーケティングオートメーションとかも日本で一番取り組んでいる会社だと思います。営業もテクノロジーを生かす一つのフィールドだという意識で取り組むことができた。それは創業当初あまり想像していなかったことなんですが、結果として新たに見つけたオポチュニティーがあったということです。
(つづく)