昨年12月9日付のBBCによると、英国の国民保険サービス局は「事務所でのファックスの使用を段階的に削減し、2020年3月末までに完全に撤廃する」と発表した。今年1月から新たなファックスの購入はしないそうだ。
何をいまさらと思いがちであるが、国民保健サービス局では現在約9000台ものファックスが使われている。仕事の多くをファックスでやり取りしている部門だったのだ。
日本でも、まだファックスをビジネスで使っているところは多い。わが家でも15年前に父が他界した際、離れて住む母と妹と弟との連絡にファックスを一斉に導入した。書類のやり取りが多い際には、スキャナーとコピーとプリンターが一体化されたファックスが大活躍した。パソコンも要らず、受信したら強制的に紙にプリントアウトして排出する。実に便利な機械だ。
ファックスの歴史は、1842年の英国アレクサンダー・ベインによる発明にさかのぼる。その後、商用利用が進み、1970年代に入ると日本のメーカーによって急速に機器が進化を遂げ、世界中に普及することとなった。
しかし90年代に入ると、インターネットの時代になりパソコンやスマホが登場。電子メールの利用が進み、ファックスの利用は減少していく。それでも、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会の統計「国内通信機器受注・出荷実績」を見ると、今でもかなりの出荷台数は確保されていることが分かる。
ファックスの便利なところは、紙を瞬時に伝送できることだ。相手方が正常に最後まで受信できたかも分かる。スマホの通信障害はあるが、電話線が切れることはほとんどなく、そしてファックスはコンピューターウィルスにも感染しない。
わが家では今年、まず母が固定電話を使わなくなったことからファックスが撤去された。ファックスの減少は、用紙代や機器費用ではなく、固定回線の撤去から進んでいくのかもしれない。
各国で通信が傍受されているといわれる中、スキャンされたアナログデータは解析が難しく、当局にとっても非常に不都合である。データの再利用性も低いことからファックスはデジタル時代において、まさに不都合な機器となったようだ。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
略歴

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。