グーグルがクラウド型ゲームプラットフォーム「stadia」を発表した。そして軒並みゲーム機器会社の株価が下がった。負荷の高い描画処理をクラウド上で行うため、PCやスマートフォンなどの端末に高いパフォーマンスは必要なく、ウェブブラウザーからクリック一つでゲームの世界に入ることができる。ゲーム機を用意することが前提だったユーザーの体験を大きく変えるものだ。
音楽はダウンロード型からストリーミングに変化したことにより、聴くに至るまでの障壁が大きく下がった。映画も端末に関係なく、クリック一つで鑑賞できるオンデマンド環境が提供されている。こうした変化がCDやDVDといったメディアを死に追いやり、再生機器メーカーを瀕死の状態に追い込んだ。ゲームがストリーミングになることも同様で、ゲーム機器を作っているメーカーへの影響は大きいと推測されることから株価下がったのだ。
ゲームのストリーミング配信については、過去に何度かトライした会社がある。しかし、うまくいっていない。では今回との違いは何か? 一つは、インターネット回線の高速化が追いついてきたことにある。インターネット回線が遅いと、スムーズに描画が出来なかったり、ユーザーにストレスを与えたりすることになるが、そこは解消されている。もう一つは、グーグルの持つ圧倒的なインフラ資源と財力である。ゲームのコンテンツは日々リアルな描画を求めて進化しており、ストリーミング配信となると、その負荷にサーバー側が耐えられるのかという声が聞こえてくる。しかし、株式市場の参加者の多くが、「グーグルなら」と期待してやまないのである。
ゲームのストリーミング配信が実現し、5Gの浸透によってモバイル端末でも高負荷なレンダリングを必要とするコンテンツが利用できたとき、VRやMRといった新しいインターフェースにも大きく寄与する。ヘッドマウントディスプレーにCPUは必要なく、5G回線に接続し映像を描画する機能があればよい。映像は、全てクラウド上で処理され、最適な状態で配信される。これにより、VRが普及しない理由としてされる「ヘッドマウントディスプレーが大きい」という問題が一気に解決する。クラウド型ゲームプラットフォームは、VRやMRの世界にも大きな影響を及ぼしそうで楽しみである。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。