クラウドビジネスのトップベンダーである米アマゾン ウェブ サービス(AWS)が昨年11月に開いたプライベートイベント「AWS re:Invent 2018」では、例年通り膨大な新発表があり、約80の新サービス・新機能が披露された。データセンター間のネットワークレベルの改良から、オンプレミス環境でAWSのサービスを実現する「Outpost」の発表まで、エンタープライズITのニーズの全てをカバーしようとしているようにみえる全方位戦略には凄みさえ感じた。
一方で、メガクラウドの一角としてAWSや「Microsoft Azure」を追う3位グループを形成する米グーグルは今年4月、法人向けITビジネス領域のグローバルイベント「Google Cloud Next '19」で122におよぶ新発表を世に出したという。
ちなみに1年前の同イベントにおける新発表の数は105。法人向けクラウドサービス事業へのグーグルの投資が年々強化されていることの証しと言えよう。ただし、彼らが単純にAWSに追いつき追い越せと考えているわけではないことも、その発表の内容からは見て取れた。
数多の新発表の中でも最大のトピックと言えるのが、コンテナ管理技術であるKubernetesベースのアプリケーション管理プラットフォーム製品「Anthos」だ。 Google Cloudだけでなく、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドでワークロードを構築・実行・管理できるようにする技術であり、「全てをAWSへ」という姿勢とは明確に異なる。少なくとも先行するクラウドベンダーとIaaSレイヤーで勝負をしようとは考えていないということなのだろう。
エンタープライズITにおけるクラウド利用が本格化してきタイミングで、グーグルもAWSと「戦ってはいけない」領域を冷静に見極めたということか。今年に入ってクラウド部門のCEOに就任したばかりのトーマス・クリアン氏は、米オラクルで製品開発担当のプレジデントを務めていた人物。一部報道によれば、クリアン氏はオラクル創業者のラリー・エリソン会長兼CTOが自社クラウドへの囲い込み戦略にこだわることに反対していたという。
確かに、もはやAWSと全面的に張り合おうとしているのは、米マイクロソフト、そしてまだメガクラウドの仲間入りをしたとは言い難いオラクルくらいなのだ。この競争を続けていくには、相応の覚悟が要る。
週刊BCN 編集長 本多 和幸
略歴

本多 和幸(ほんだ かずゆき)
1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、2013年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。