カンボジア20.1%、ミャンマー12.8%、ベトナム5.6%、中国3.6%、インドネシア2.3%――。これは2017年度における「技能研修生」の国別の失踪者の割合で、失踪者数は年間7000人にも及ぶ。
一部に誤解もあるようだが、アジアから日本にやって来る若者は、比較的良質な若者である。多くは事情があり失踪している。それは現地と日本の悪質ブローカーの存在である。逆に言えば、インドネシアの比率が比較的低いのは政府がきちんと業者を取り締まっているからである。
多くの若者が借金をして日本にやって来る。技能研修生の場合ではどうしても30万円くらいはかかる。これが悪質ブローカーにより100万円、150万円になると、3年では払いきれなくなるために失踪することになる。
今回の入国難民法改正の新しい在留資格「特定技能」では、企業が直接外国人労働者を採用(最長5年間)することが可能になる。これは技能研修生の場合、仲介していた送出機関や日本の監理団体をカットできるためピンハネが少なくなる。かつ毎月監理団体に支払っていた一人当たり3~4万円の管理費も給料に回せる。端的に言えば、帰国した技能研修生にもう一度声をかけて採用するなら(技能研修2号の場合)、今度は経費ゼロで日本に勤務できる。双方にとって一番効果的である。
「特定技能」は、人手不足が深刻な14業種で今後5年間で34万人を見込んでいる。そのうち素形材産業や造船などは、これまでの技能研修の終了生をそのまま移行させる。外食、宿泊などの新規業種では、日本の大学に留学したが国内で就職先が見つからない若者に5年間のリクルート期間を与えるなど、良い人材を日本にとどめておきたい、そんな配慮が読み取れる。技能研修生制度の良いところは残し悪いところは見直して、外国人労働者の雇用環境を改善する。労働供給力の確保のほかに、今回の改正のもう一つの大きな狙いがそれである。
これまでの日本社会は、外国人を労働者としては活用するものの、人権的には十分にはカバーしないという、日本社会にとって都合の良いやり方で対応してきたが、今回の法改正からは明らかに方向を転換した。外国人労働者を日本社会の一員として加えるという点で、3歩も5歩も前進したといえる。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。