5月21日、フェイスブックから「Oculus Quest」が発売された。昨年5月に売り出した「Oculus Go」は2万円台と安価なことから、ユーザーの幅を広げた。今回はその上位に当たるモデルで、PCが不要なスタンドアロン型VRデバイスだ。大きな違いは「6DoF」でのポジショントラッキングができることだ。つまり、6方向を感知してVR空間の中を歩き回ることができるようになったほか、コントローラーも6DoF対応のため、つかんだり、投げたりといった操作が行える。
実際に体験してみると画面の解像度もアップしており、自分の手の動きをそのまま持ち込めるので没入感はかなりのものだ。ただし重さは増したため、ゲーム機らしい装着感にもどってしまった。コンテンツについても次世代ゲーム機と銘打っているためゲームが中心だ。
Oculus Questにコンテンツを掲載するための審査が厳しく、クオリティはかなり高いが、ゲームに偏った印象は拭えない。VRはライフスタイルになるポストスマホであるべきで、それをゲーム機にしぼってしまったのは少し残念に思う。一般家庭に普及し、スマホの次を担うにはまだ時間がかかので、それまではゲーム機としての収益化を進めるとの判断なのであろう。一方、先日発表になったマイクロソフトの「Hololens 2」 はターゲットをビジネスに絞ったブランディングで、製造業の製品のレビューやデザインレビューが主な利用ケースとして紹介されている。
これらの製品戦略から、VR/MRを彼らがどう捉えているのか垣間見ることができる。オープンプラットフォームとしてスマホのように展開するのにはまだ早すぎる、どのように使うのか。その未来を示し体感してもらう段階であり、広い草原にユーザーを解き放し、自走させるステージではないという判断なのであろう。
スマホ登場時にもたくさんのスタートアップが名乗りを上げ「マーケットが立ち上がった時、生き残ったものが勝つ」と言われた。つまりマーケットが軌道に乗るまで資金を持たせること、マーケットがブレイクした際に必要な準備を虎視眈々と進めること、それを進める段階だということだ。
2社の動きからマーケットがブレイクするまではビジネス化の領域を絞り、収益とのバランスを考えるフェーズに入ったと見ることができる。次のブレイクのためのきっかけは、オリンピックに向けて動き始めている。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。