「ユーザー企業の経営者はITについて知識も理解もない。だからITの活用が進まない」
こんな声もある。SI事業者の経営者は自らを省みるべきだろう。AIだ、IoTだ、クラウドだ、と流行の言葉を並び立てても既存事業を大きく変えることなく、「化粧まわし」として使うだけではITの活用は進まない。
例えば、クラウド事業とは本来、クラウド・ネイティブへの移行を支援することだ。コンテナやサーバーレス、マイクロ・サービスを駆使し、アジャイル開発やDevOpsといった実践ノウハウを顧客に提供して開発や保守の負担を減らし、変化に即応できる情報システムへと変革することであろう。
新しい常識に対応するには、三つの要件がある。
一つは新しい常識への理解だ。クラウド事業であれば、政府システムの調達基準が「クラウド・バイ・デフォルト原則」となったことや、銀行がクラウドの積極的な利用を進めている事実を考えれば、いまさら「クラウド事業を検討する」など時代遅れも甚だしい。
二つめは業績評価を戦略に一致させることだ。従来の売上高と利益だけの評価基準では、現場は動かない。時にして一定の初期投資を覚悟しなければならず、短期的に売上高や利益は減少するかもしれない。評価基準が従来のままでは、現場は新しいことに取り組むほどに自分の評価を下げてしまう。既存業務と新しい取り組みの評価基準を分けて設計すれば、危機感や精神論を語らなくても、現場は何をすれば自分が評価されるのかが分かるので、自律的に学び、知恵を出すようになり、自ずと事業目標の達成が可能になる。
三つめは、意志決定のスピードを上げるため現場に大幅な権限委譲を行うことだ。そのために現場の状況をリアルタイムで「見える化」することが必要になる。SlackやTeams、Offive365のMyAnalyticsなどを使えば、生々しい現場がリアルタイムで把握できる。文学表現を駆使して時間をかけて、出来ない言い訳を清書する日報や週報は不要になる。
「ユーザー企業の経営者が、ITについて知識も理解もない」と言う前に、まずは自分たちを振り返ることから始めてはいかがだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。