企業文化とは「行動習慣」だ。指示や命令などを社員に出さなくとも自発的、自律的に組織を機能させる役割を果たしている。企業を変革したければ、この企業文化、つまり行動習慣を作り替えることだ。
危機感を煽り、叱咤激励し、自助努力を求めても企業文化は変わらない。行動習慣を変えることだ。そうすれば、自ずと思考パターンも変わり、新しい事態にも自然とそれが適用され、結果として、企業文化は変わっていく。
そのためには、業績評価基準を変えることだ。何をすれば、人事査定の評価が上がるのか、給与やボーナスが増えるのか、昇進するのかの基準を目指す行動習慣の「あるべき姿」に応じて作り替えることだ。そうすれば、叱咤激励や危機感を煽らなくても、社員はその業績評価基準を達成するために自発的に学び、自律的に行動し、自ずと企業文化は醸成されていく。
ユヴァル・ノア・ハラリは、自著の「サピエンス全史」で、人間は「虚構」によって集団としての能力を拡大し、他の動物を圧倒することができるようになったと述べている。虚構とは、現実には存在しない架空の物事であり、想像力の産物である。私たちは、そうした虚構を集団で信じることで、圧倒的なチームワークを得てきたとしている。
サルやゾウなど他の動物も群れを組んで協力はするが、それができる個体数は150程度だそうである。しかし、私たちホモ・サピエンスだけが、数千や数万の単位で協力し合えるようになったのは、虚構を信じる想像力があったからだ。
虚構とは伝説や神話、宗教などだ。国家や貨幣、司法制度や会社組織といった制度もまた虚構であり、大勢がそれを信じることで成り立っている。
企業もまた虚構である。だからこそ組織の能力を集結し、変革を推し進める上で、経営者はそれにふさわしい虚構を示す必要がある。
少子高齢化はもはや避けることができず、工数提供だけで収益を拡大することは難しくなる。加えて、クラウドコンピューティングや自動化の進化と普及は、工数需要を減らす。だからこそ、経営者は次の時代にふさわしい虚構を示し、企業文化の変革、つまり新たな行動習慣を作り上げるしかないだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。