自治体の総合戦略策定が急がれる中、よく語られるのがSociety5.0である。内閣府のHPには「Society5.0とは、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立させるSosiety4.0に続く新しい社会」と記載されている。
そしてIoT/AI/ドローンといった先端技術のワードが飛び交っている。この資料を見て総合戦略策定に組み込めと言われると、AIでオープンデータの解析をしよう、IoTだからセンサー付けよう、自動運転のプロジェクトを立ち上げよう――と、繋がらないサービスが乱立してしまう。それではSociety4.0と何も変わらない結果しか生まれない。
例えば交通情報は、センシングデバイスから得たデータはクラウドで集められたとしても、メーカーや業態を超えて統合されなければ優秀なAIが開発されようが最適解は出てこない。統合されて最適な運搬ルートが導きだされたとしても運送業、ドローン業者は連携するだろうが、街の環境データやエネルギー効率などのデータもリアルタイムに加味できなければ、新しい社会とはいえず未来展望を提示できない。
Society5.0はデジタルで現実世界を再現し、その上でさまざまなシミュレーションを行えるようにするための共通基盤だ。Digital Twinといったほうが馴染み深いかもしれない。現実世界の状況がリアルタイムにデジタル仮想空間に再現されているのだから、現実空間で実証実験やシミュレーションをしなければならなかったことは、全て仮想空間でできることになる。
例えて言えば、この施設を作ったら環境への影響は?というシミュレーションも、日照時間やエネルギー効率だけでなく、仮想空間に生命の生息データがあれば、その影響度も分かることになる。これまでは特定された因子の影響を想定した上でデータをインプットしてシミュレーションをしていたが、Society5.0では存在するデータ全ての影響をシミュレートできることになる。リアルタイムに世界がミラーされているのだから、リアルタイムの空間検索が可能になる。
例えば、「現在夕日が綺麗な場所」といった検索も可能になる。ライフスタイルは大きく変わるだろう。大きな指針だがベンダーの利権争いによって全く進まないとの声も聞く。大逆転のチャンス。ここは思い切って乗り越えてほしいものだ。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。