経済産業省が組込みシステム技術協会(JASA)、組込みイノベーション協議会と共催した「組込みDX推進フォーラム」では、衆議院議員で組込みIoTイノベーション議員連盟の河村建夫会長が「サイバーとフィジカルが融合していく中で新しいビジネスチャンスを見いだしていこう」と、組み込みソフト開発と密接な関係にあるサイバー/フィジカル領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を呼びかけた。8月末に都内で開催したもので、組み込みシステムのDXに焦点を当てた。(取材・文/安藤章司)
組込みIoTイノベーション議員連盟
河村建夫
会長
組み込みソフトは、工場やロボット、自動車、プラントといった制御分野に広く活用されている。経済産業省の菊川人吾・情報産業課課長は、「産業や社会基盤を支える制御分野は、DX推進の余地が依然として大きい」と指摘。JASAの竹内嘉一会長(日新システムズ社長)は、「社会インフラとクラウドの中間に位置するエッジコンピューティング領域が、組み込みソフト開発ベンダーの主戦場となる」と、同領域でのDX推進を重視していく姿勢を明確にした。
フォーラムでは、サイバー/フィジカル領域の事例発表の一環として、松江市上下水道局の中倉隆・工務部次長が登壇。DX推進で最初の課題となる既存システムの維持費削減をテーマに講演した。上下水道局では、水源や浄水場、ポンプ場、配水池など250箇所余りの施設を管理している。市町村合併の経緯もあり、これら施設を遠隔で監視するシステムは実に16種類もあった。それぞれのシステムの互換性は乏しく、保守の手間もかかることから、「水道施設を管理しているのか、管理システムの管理をしているのか、分からない状態」(中倉次長)と、本末転倒の状態だったという。当然、維持費もかかる。
松江市上下水道局
中倉 隆
工務部次長
そこで、FA分野などの通信インターフェースの標準規格の「OPC」に準拠したオープン型の遠隔監視システムを導入。16種類あったベンダーの仕様に依存した管理システムから標準規格にもとづく一つの管理システムに統合したことで、「システムの汎用化、設備機器の汎用化、保守性の大幅な向上」を実現している。
設備メーカー固有の技術に依存しなくなったことから汎用的、標準的な技能で対応が可能になるとともに、大手メーカー系列ではない組み込みソフト開発ベンダーの参入障壁が大幅に下がったことで競争原理が働き、「よりよいシステムをより安く調達できる環境が整った」と、DXに向けた第一歩を踏み出している。(つづく)