知己のIT企業経営者や日々客先サイトで作業に従事するエンジニアのみなさんの話を聞いていると、通称「SES」と呼ばれるソフトウェア・エンジニアリング・サービスへの需要が先細りしつつあることを肌で感じる。将来への不安を抱きながら目先の需要を追い続けて日々過ごしているというのが、昨今のIT企業経営者と、客先に出向している多くのエンジニアの現実だと思われる。
特に、30代、40代のエンジニアは、10年、20年後の将来に展望を持てない不安を抱きながら、日々客先サイトでのエンジニアリング業務に忙殺されている。新しい技術を学ぶ自己努力を続けても、その成果を生かす機会が与えられることもなく、このままでは技術トレンドから取り残されるのではと思い悩んでいるエンジニアは少なくない。
長年SES事業に携わってきたIT企業経営者は、SES事業から抜け出すための手掛かりとなるソフトウェア製品を探し求めて試行錯誤を繰り返しているし、業界中堅のIT企業に勤めるエンジニアからは、SES事業から転換するための事業企画の社内公募があると聞く。
一方で、知己の派遣事業者は、益々高まるエンジニア需要に追い回されながら、国内にとどまらず広くアジア諸国からの人材調達に躍起となっている。ベトナムのある人材紹介事業者は、国内大手企業からの要望に応えるため、自国の大学と協力して高度IT人材を育成し日本企業へ供給する計画を進めている。高度IT人材を集めるため新卒者向けに桁違いの高給を提示した企業があれば、中途採用を新規採用の50%まで高めるという企業も現れてきた。これらの事実は、国内企業の中に高度IT人材を自社内で育てる余裕が、人材的にも、時間的にもなくなっていることを示唆している。
それでは、大手企業の下請けをしてきた数多くの小規模IT事業者はどのようにして高度IT人材を求めればよいのだろう。現実的には、雇用している30代、40代の中堅エンジニアを高度IT技術に対応できるよう再教育し、活用していくほかに手立てはないのではないだろうか。今、私が取り組んでいる新事業では、市場にある先端的なIT技術製品をいくつか選択し、エンジニアが自ら学び利用できる環境を整え、事業モデルの実装試行を通じて再教育を行うというアプローチを取っている。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。