視点

サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

2019/11/22 09:00

週刊BCN 2019年11月18日vol.1801掲載

 自分の症状に意識を向けて不調を意識すればするほど、その不調が起こりやすいことをノセボ効果(nocebo effect)という。
 情報が多いことが人々を不幸に導いているのではないか?そんなことを感じるケースが、最近いくつかあった。

 例えば就職活動。学生たちはネットを駆使して企業を研究し、その企業に関する評判や些細な噂までを気にする。その結果、ブラックな話が一切「ネット上に無い」企業に応募が集中する。仕事がきつくなくて、最初から責任を持った仕事を任せてくれる。休みはたくさんあり、給与は高い。そうした企業は、あることはあるのだろうが、極めて能力の高い学生もしくは運が良い学生だけが採用され、おおかたの応募者が落ちる。情報が行きわたらなかった頃に比べ、競争は格段に激しくなる。運よく入社できた学生は、入社後に企業側で情報のコントロールが厳しくなされていたことを知ったりする。

 例えば恋愛事情。若い人たちが驚くほどマッチングアプリを使い出会っている。SNSも併せて使うので各個人に関する情報量は膨大だ。相手に関する情報を同性同士で交換していたりもする。そうした情報を夜な夜な読んでいるうちに、些細なことも気になり完璧を求めがちになり、なかなか特定の彼氏や彼女ができないという話を聞いた。良い情報で自分を飾るために、一生懸命ネット対策を行う時間は全く無駄とは言わないが、かなり無駄である。

 学校や会社や地域でのいじめも、以前のクチコミからネットの利用で勢いを増しているように感じる。一国の大統領が公式声明よりも先にSNSで発信し、それによって世界情勢が変わるという時代である。

 では、どうあったら良いのか? 一旦できたサービスは事故が起こらない限り無くならない。場の閉鎖や利用制限、ネットでの書き込み制御ということでは、また別の場が生まれるだけで、根本的な解決にはならない。

 情報の受信の仕方、発信の仕方、保管の仕方、破棄の仕方。そうしたことを学ばずして、いきなり情報の大海原に私たちは漕ぎだしているのかもしれない。ネットリテラシーに関する教育は、デジタルネイティブでない親世代や学校の教員では難しい。若手講師による教育コンテンツを作って、共同利用するのはどうだろうか?
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

略歴

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
  • 1