タイで路上生活者を支援する慈善団体のイサラチュン基金によると、バンコクの路上生活者は今年で4392人と前年から1割増えた。路上で危険な生活を送る人たちは毎年増えているのにバンコク市は無関心で、露店の排除や住宅密集地域の再開発などで彼らの仕事と場所を奪い取り、路上生活者へと追いやることを平気で行っていると非難している。
これはバンコク市だけではなく世界的な傾向である。格差が国境を越えて、天文学的に拡大している。そしてこの格差の実態がSNSでどんどん拡散する。米国のトランプ大統領は誇らしげに過激派組織のイスラム国(IS)の指導者を殺害したと発表したが、元々ISは米国がイラク戦争を始めたことと、中東地域の格差と貧困から生まれている。香港の「逃亡犯条例改正案」反対のデモも、底流には香港社会の絶望的な格差と貧困がある。そして、ほとんどの人がこれらのことに無関心である。
同じようなことが日本でも深く進行している。例えば、これもほとんど話題にもならないが2023年10月から消費税が商品の税率ごとに税額を書いたインボイス(税額表)方式になることが決まっている。税率ごとに税務署から割り振られた登録番号のついた書類で、商品の売り上げごとに整理しなければならなくなる。このインボイスを出すためには消費税の課税事業者になる必要がある。現在消費税が免除されている年商1000万円以下の事業者のほとんどが課税事業者に切り替わざるを得ない。
私の友人が地方の商工会の事務局長を務めているが、会員の7割は年間の売り上げが300万円以下の店であるという。確かに消費税分を益税で店側がいただくのは不公平ではある。しかし、まさに身の丈の経営をしているおじさん、おばさんのどんな小さな店でも、この事務作業をさせて税金を払わせることにどれほどの意味があるのか。おそらく多くの廃業が出るであろう。街のインフラも失われる。そしてもっと大事なことは当人を含めて多くの人が、このことに無関心であることだ。
グレタさんが強く訴えている地球環境問題も多くの人が無関心のうちに、異常気象などで多くの被害が身近なものとなって現われ始めた。今の世は多くの情報の波の中で無関心になることが最大のリスクなのかも知れない。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。