視点

週刊BCN 編集長 本多 和幸

2020/02/21 09:00

週刊BCN 2020年02月17日vol.1813掲載

 2018年秋に経済産業省が発表した「DXレポート」で提示された「2025年の崖」問題は、今年も引き続きITベンダーのマーケティング上、ユーザー企業のIT投資を促すためのキラーワードに近い使われ方がされるのだろう。ユーザー側にも、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性と危機感についての啓発効果は一定程度あったのではないかという気がする。最終的にユーザーが積極的なIT投資によりDXの基盤を整え、ITベンダー側も高付加価値かつ適正な利益が得られるビジネスに転換できれば理想的ではある。

 DXレポートが2025年の崖として指摘したのは、レガシーな情報システムが残存することが日本企業からアジリティを奪うことにつながり、ビジネスにおける競争力が弱くなってしまうというリスクだ。目まぐるしく移り変わる事業環境に即してビジネスを進化・変化させられるようにシステム全体の見直しを図ることが、DXの基盤づくりには不可欠というわけだ。その意味で、SAPのERP旧製品を核とする「SAP Business Suite 7」が25年に保守期限を迎えることも、2025年の崖と同じ文脈、タイミングでDXに向けたシステム刷新を促すイベントと目されていた。

 しかし、ここにきてSAPは、Business Suite 7の標準保守サービスの提供期限を2年延長し、さらに通常の保守料に追加料金を払うことで最長で30年末まで延長保守サービスを受けられるようにするという方針を発表した。もともと日本法人であるSAPジャパン内やパートナーの間でも、今回のような動きに至る可能性は高いという声はあった。2000社とも言われる日本企業のSAP ERPユーザーが最新ERPの「S/4HANA」に移行する動きは進んでいるものの、移行に必要なリソースを考えても、その全てを25年までに移行完了させるのは現実的ではないというのが、多くの関係者の共通認識だったという印象だ。

 立場によってさまざまな反応があるであろう今回のSAPの決断だが、どんな立場にせよ、DXレポートの指摘について改めてその本質を考えることは無駄ではないだろう。市場環境の変化に都度対応してビジネスモデルを柔軟かつスピーディーに変えていくための基盤たり得る情報システムを早期に整備できなければ、ビジネス上の損失は年々飛躍的に拡大していく。27年にERPの移行を完了したはいいが、その時すでに崖の下に落ちていたということでは目も当てられない。
 
週刊BCN 編集長 本多 和幸

略歴

本多 和幸(ほんだ かずゆき)
 1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、13年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。
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